【column】 Polish Black Metal Scene - III 

【前回】 Polish Black Metal Scene - II

■ その他の90年代初頭のポーリッシュブラックシーン

 前回は"The Temple of Fullmoon"について紹介し、なぜポーランドのブラックメタルシーンにおいてNSBMが広まったか、などについて触れた。今回はまず、そのようなサークル外における90年代初頭のポーランドのブラックメタルシーンについて書くことにする。

 ポーランドでもっとも"有名"なブラックメタルバンドといえばBehemothなのは間違いない。1991年、Nergalが若干15歳のときに結成されたバンドで、この時点では完全にスカンディナビアンブラックメタルをやっている。作風としてはDissectionやMayhemに影響されたと公言しており、ティーンネイジャーであったが故の、やってみたい音楽と自分たちの演奏的力量の双方で落ち着いた領域だったと語っている。そのことからも解る通り、直接"Temple of Fullmoon"に影響されていない。後に演奏的力量の向上と共にサウンドのデスメタル化してきたと言われていたが、後年、彼はインタビューでこう答えている。

with Nergal (Behemoth)

―あなたはブラックメタルとしてBehemothを始めたけれども、"SATANICA"からはデスメタルになったが?

 確かに初期にやっていたような内容からはかけ離れてきた。当時やっていた曲の音楽的な難易度は"簡単"だ。今はもっとへヴィなリフ、グルーブを重んじて曲作りをしている。なぜなら単純にギターテクニックが上がったからだ。できることが増えて表現が変わるのは当然なことだし、今の自分の音楽に誇りを持っている。俺たちは今でもたまに1994年当時に作った曲をプレイするし、今のも当然プレイする。どちらも同じバンドだ。俺にとってはどちらもブラックメタルスピリットなのさ。

 私がBehemothを結成したのは15のときだ。俺はその頃はひたすら好きな音楽に没頭していただけさ。そして俺は成長した。つまりあのときの俺はそこにいたし、今の俺はここにいる、ということさ。”ジキルとハイド”ではないのさ。俺たちがまだいわゆるブラックメタルだった頃から考えるとデスメタルアプローチを多く混入してある。だがデスメタルバンドではない。

 なぜならば俺たちはペイガンバンドなんだ。人々はペイガンという単語の意味を勘違いしていると思う。我々は以前から自分たちの祖先たちについてよくテーマにしている。俺たちのペイガンはいわゆるスラヴァニックセンスだ。一方で今日のペイガニズムはグローバルセンスだ。例えばエジプト、古代ローマにも各々のペイガニズムというものがある。だから俺たちはそれらをミックスさせてBehemothにフィットさせているのさ。

―あなたはなぜペイガニズムについてテーマにするのですか?

 それは際限がなく、教義もない。ルールや命令もなければ宗教でもその類でもない。自然に根ざした自由だ。そういうものに強い関心を持っている。


 また、他に90年代初頭においてポーランドで有名なバンドで言えば、Holy Death(1989-)、Christ Agony(1990-)、Xantotol(1991-)、そしてBesatt(1991-)あたりだろう。ここでは特に私が好きなBesattのインタビューを取り上げてみたい。

with Beldaroh (Besatt)

―ほとんどのリスナーは歌詞に注意を払わないんだが、その手のリスナーについて思うところはある?

 我々のメッセージは自分たちにとってとても重要なものだ。だからリスナーに理解してほしいし、その考え方をサポートしてほしいと思っている。しかし自分たちは常にリリースごとにベストを尽くしているわけで、そのようなリスナーから賛美を受けることもうれしく思っている。

―その歌詞についてだが、題材は?

 自分自身の考えや、サタンとコネクトされるデーモノロギー(著者注:神ではない超自然存在を認める主義)についてだ。それからキリスト教主義の全否定だよ。私はデビルというものを信じてはいない。単に自分自身を信じているし、それが私にパワーを与える。

―キリスト教の破壊をブラックメタルバンドが行うべきだと考えていますか?もしくはそういうこと抜きに活動すべきですか?

 キリスト教主義は我々の社会にあまりにディープに組み込まれてしまった。我々の"攻撃"の一つ一つは効果的ではない。敵ができるほど彼らは深く信じるからだ。

―あなたのブラックメタルシーンの中枢とは?ポーランド、ウクライナ?

 ポーリッシュシーンはとても強い。Arkona、Thunderbolt、Moontower、Holy Death、Black Altar、Infernal War、Gravelandだ。90年代においてポーリッシュアンダーグラウンドではいがみ合いによるバンド界の諍いが絶えなかった。だがそのシチュエーションはここ数年で終わり、新たにシーンが作り直された。もちろんウクライナは近年多くのすばらしいバンドが出てきているね。もしかするとそれは正しいかもしれない。なぜなら我々はまだコマーシャリズムに関して西欧シーンと比較するとフリーだからだ。コマーシャルバンドには幻滅させられるよ。


 今回あげた二つのバンドマンのインタビューはいずれも90年代初頭から活動をしており、かつ"The Temple of Fullmoon"の影響の外にいて、かつインタビュー自体は2000年代に入ってからのものである。インタビュー内容自体は一部のみ取りあげたわけだが、どちらのバンドにしても明確な信念を持ちつつ、かつ落ち付きのある回答が見られる。そして両バンドともに現在もなお第一線で活動しているというのも面白い。


■ 90年代後半以降のポーリッシュブラックメタル

 90年代後半になると"諍い"の絶えなかったポーリッシュブラックシーンも落ち着き始めた。一方でプロモーションのやり方にも変化が出始め、バンドの内向きの活動が目立つようになる。すなわち自己レーベルでのリリースなどである。そのためポーランドのブラックメタルは国内での交流が盛んになる一方で、BehemothやGravelandといったメジャーなバンドは除き、世界的な注目はむしろ下がっていったようだ。ポーランドのブラックメタルシーンは諸外国と比べても遜色ないレベルのバンドが多いのに、そこまでメジャーで無い理由というのはこのプロモーションによるところが大きいようだ。近年、再評価されて再発など相次いでいるのも頷ける話である。

 ちなみにその交流としては様々なバンドのメンバーが別のプロジェクトを立ち上げていくような流れで、例えばArkona(1993-)はポーランドの初期ブラックであるPandemoniumのメンバーによるものであるし、Gontyna Kry(1993-)のメンバーはKataxu(1994-)やAetheres(1997-)を始めたり、さらにChrist AgonyのメンバーがBlasphemy Rites(1997-)をやったりしている。

 また一つの方向性としてはブルータルなブラックメタルが一つの流行になった。これは一つにはBehemothだけでなく、Vader、Decapitatedといったブルータルデスメタルの世界的成功があると思われるが、主に前述したThunderboltInfernal Warといったバンドがブルータルブラックスタイルを示した。特に前者のバンドは元々はメロウな要素を持つペイガンブラックメタルをやっていたものだから、彼ら自身の音楽趣向と、ポーランドのメタル情勢の双方が共鳴して、スタイルの変更に至ったと思われる。

 The Temple of FullmoonのメンバーはThor's Hammer、Ohtar、Selbstmordといったバンドを組み、完全にNS思想のバンドをやっていた。このあたりはむしろNSBMコラムですでに述べた話になるので割愛するし、もう一つはInfernum関連のバンドが二つ出来た話なども割愛する。他に人脈筋ではDark Furyもここら辺に入ってくるし、先述したArkonaもここのカテゴリーにも一部入っており、この辺りの絡み、つまり1st-wave世代と2nd-wave世代の完全なコラボが実現したあたりで、"諍い"が完全な終焉を迎えたと言えるのではなかろうか。

 一方でブラックメタルの音楽性にフォーカスを合わせたようなバンドも出てきている。例えばBlack Altar(1996-)、Crionics(1997-)などである。彼らのインタビューからはキリスト教の否定や破壊、自己哲学といった主張はあまり見えてこず、むしろブラックメタルを聴いて育った者の音楽的な継承のように感じる。

■ 終わりに

 かなり駆け足ではあるが90年代初頭から終わりまでのポーリッシュブラックメタルをバンドを中心に振り替えった。残念ながら国内のいざこざが絶えない時期があったこと、そしてもう一つはそういうことを経て自己リリースなどによる国外ディストロやジンへのプロモーションの減少などによってリアルタイムでの情報が欠けているということもあり、あまり具体的な話はできなかったが、それもまたポーリッシュブラックを彩る一つの出来事であろう。

 次回はいよいよ最終回ということで00年代から現在に至るまでのポーリッシュブラックの"今"を見ていきたい。

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【column】 Polish Black Metal Scene - II 

【前回】 Polish Black Metal Scene - I

■ The Temple of Fullmoon

 ブラックメタルのことに興味がある方であれば恐らく一度は耳にするであろう"The Temple of Fullmoon"とは、これはノルウェーの悪名名高き"Inner Circle"に触発されて、ポーランドで90年代初頭に結成されたサークルである。"Inner Circle"に触発されただけに、彼らは2nd-wave Black Metalであるノルウェイジャンブラックの流れを汲んだブラックメタルをやるようになり、そのサタニズム信奉においてはトレンディー音楽と目されたデスメタルを"偽物"だとして完全否定し、憎しみの対象とした。それが先述したPandemoniumなどのバンドである。

 "The Temple of Fullmoon"に属していたバンドの特徴としてはノルウェイジャンブラックの影響を大きく受けつつも、

 1. ケルト音楽由来のフォーキッシュなメロディが含まれる
 2. 政治的な主張(NS)とリンクしている
 3. バンド間でメンバーの重複が多い

といった特徴がみられ、それらのうち1.は現在のポーリッシュブラックメタルシーンの作品にも受け継がれている。

 また諸外国のブラックメタルマニアにおいてはノルウェイジャンブラックが90年代初頭のうちに没落していった中で、その情報のなさからその活動が神秘的に映ったようだ。そのため "the Next Norway" とも称されたという。実際、"Temple of Fullmoon" そのものに関する文献は昨今、ウェブ上でもあまり見ることができない。それはまずフランスのLLNで見られたような、彼ら自身が発行した身内向けのZineすらなかったためだと思われる。またポーランド人は英語が公用語ではないことも理由の一つであろう。サークルのメンバーとしては、記載がある限り、Mysteries、Inferum、Fullmoon、Graveland、Veles、Legionといったバンドだと思われる。

nsbm_pol.jpg
メンバー全員で撮影した写真。ハーケンクロイツを掲げている。


 また、当時はフランスのLLNのメンバーとも交流があったようだ(LLNのコラム参照)。面白いのはLLNの舞台もカトリック教会の力が強い地域だったことである。ただしこのポーランドという地域ではその影響力が段違いに大きかった。LLNは教会を焼かなかったのに対して、ポーランドではそれが起きたのはその点も加味する必要がある。このあたりはGravelandのDarkenがインタビューで答えている内容が興味深い。

with Darken (Graveland)

西欧とは違いポーランドは熱狂なカトリック国で、教会の政治的影響力は生活にまで及んでいる。ポーランドのブラックメタルアンダーグラウンドにおいて見られる強烈なキリスト教への嫌悪はそのカトリック社会への嫌気から来ている。教会は我々を捻じ曲げ、精神を犯してくる。それは家族を通じて辿りつくのだ。これはとても難しい問題だよ。

今日、ポーランドにおいても大きな都市においてはカトリック教会の役割は弱まっている。しかし小さい町にはまだ多くの若いブラックメタルミュージシャンたちとリスナーがいるよ。それは教会の役割がまだ大きいからだ。反キリスト教という考えはまだ生きているし、ポーランドでは根強いんだ。

若者が権力に抗うと言う行為は実に自然なことだが、ことポーランドにおいては家族から強く糾弾されることになる。家族は教会に強く依存しているのだからな。家族に多くのルールを強制される。例えば毎週日曜は教会に行くとかだ。それを守らなければ家族から精神的な迫害を受けることになるのさ。やがてその若者は圧力に屈し、教会にとって"善い"方向に引き戻されてしまう。これは私自身の経験から良く知っているのさ。家族は私を怨んだ。私はカトリック教会が欺瞞の塊であり、尊敬に足らないことをそこで理解したのだ。


 本コラムのPart.1ですでに書いた通り、ポーランドという国の成り立ちはカトリック信仰と密接であり、また歴史的過程を経て多民族国家でもある。そのような中でポーランドの若者はカトリック信仰への否定をしたときに、それに代わるアイデンティティがその混血が故に確固たるペイガニズムとして紡げなかったことが、このThe Temple of Fullmoonの存在理由に繋がっていると思われる。だからこそこのサークルの活動はアンチクライストとNS思想を根本とするのだ。これは以前のNSBMのコラムで書いた通り、ネオナチ活動においてそのすそ野を広げるためにスラブ系などの民族もアーリア民族に見做すようになってきたためであろう。

nsbm_pol2.jpg


 The Temple of Fullmoonの影響を受けて、サークル外においてもLord of Evil/War88、Gontyna Kry、Kataxu、Thunderboltといったバンドもシーンに登場してきた。いずれも先ほどのような特徴を持っており、ポーランドはNSBMの大きなシーンと目され始めた。トピックとしては元Gravelandのドラマー、CapricornusがドイツのNSBMバンドであるAbsurdのデモ"Thuringian Pagan Madness"をポーランドにてリリースしている。Absurdのメンバーが殺害した少年の墓をジャケットに使用し、ナチスのステイトメントをモチーフにして獄中で作成した曰くつきのデモであった。

 しかしながら、このようなサタニズムとNS思想のダブルスタンダードは歪を含有していた。やがてそれらの思想は徐々にかい離し始めた。

with Darken (Graveland)

初期のGravelandはサタニズムとペイガニズムを組み合わせていた。私はペイガニズムについて表現したかったから、区別するためにGravelandは一人でやることにしたのさ。

やっている音楽はNSBMではない。そう思われるのは私の持つ政治的姿勢によるものである。しかし私にとっては神秘主義と古代ペイガンがもっとも重要であり、政治的思想はプライオリティが低い。Gravelandはバンドであり、何より音楽であることが最も重要だ。NSBMとは違うと考えている。


with Paimon (Thunderbolt)

俺たちがポーリッシュブラックシーンに加わったころは、Graveland、Fullmoon、Infernum、Velesが唯一のシーンだった。93年のことだ。だからNSBMに同一視された。しかし98年頃にはそこから抜け出した。俺たちには全くそんなポリシーがないからだ。だって俺は個人主義を信奉しているし、宗教もポリシーもいらない。白人だろうが黒人だろうが何だろうが、すべての人間には同様に価値がない。

NSBMという存在理由はとても複雑な問題ではあるが、私個人としては数年前に人間や人種についての興味を失ったよ。時々、古代文明の書物に目を通したりはするけれどもね。俺の主張としては、ブラックメタルと社会問題を政治的にミックスしていることは間違えだったということさ。ポリシーっていうのは飼いならされた羊のように、人をコントロールするものだ。

もちろん俺はアンチクリスチャンだが、そのイデオロギーにキリスト教は一切関係がないし、スラヴィッシュとかそういう人種の類とも関係ない。俺を超える神などいないのさ。ブラックメタルにおけるペイガニズム、ヒーゼニズムの類はお間抜けだ。ブラックメタルは悪魔主義(個人主義のことだ)に限るべきだ。


 このようにしてThe Temple of Fullmoonは思想・信条の乖離から解散していったようであるが、中枢にいた人物たちは各々の信条を持ってバンドを各自続けていったし、その過程でThe Temple of FullmoonのChildrenと言えるバンドも現れてきた。


■ おわりに

 Part.1ではポーランドという国の説明とポーリッシュブラックメタルの成り立ちを紹介し、Part.2ではこの国のブラックメタルにおける中枢とも言うべき、The Temple of Fullmoonについて紹介することで、なぜこの国のブラックメタルにおいてサタニズムとNS思想がクロスオーバーしたかについて、インタビューにおけるコメントなどを挟みつつ説明した。本当はもっとこのサークル自体について、様々な記事を取り上げることも考えたが今回はあえて割愛した。

 次回はThe Temple of Fullmoon外の90年代初頭のポーリッシュブラックメタルシーンについて紹介し、続いて90年代後半から現在にかけてのポーリッシュブラックメタルシーンの状況、最近の活躍しているバンドについて紹介していく。

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【column】 Polish Black Metal Scene - I 

■ はじめに
infernum.jpg
 これまでのコラムにおいて特に取り上げたシーンは主にフィンランド、フランスであったが、今回は東欧の特にポーランドのブラックメタルシーンにフォーカスを当てて、その成り立ちや時系列に沿って、その系譜をまとめていきたい。またいつも通り、様々なバンドのインタビューにおける発言などもピックアップしていくことで、当時の空気感を少しでも疑似体感するなどして、アンダーグラウンドなシーンについて考えが及んで頂ければ幸いである。

 LLNのコラムのときもそうだったが、筆者は特段このシーンについて精通しているわけではなく、むしろ知らないことの方が多く、間違いや勘違いなどもあると思うので、気づかれた方はコメントなどで教えていただけると幸いです。

■ ポーランドという国

Poland.gif 当時、様々な民族が織りなす地帯で、後のポーランドとなるポラン族は北はスラヴ系、バルト系の民族、南はボヘミア、モラヴィア、そして西の神聖ローマ帝国の脅威にあった。そこでポラン族は自領土のキリスト教化(カトリック)によってローマ帝国との争いを避け、周辺民族との再編を経てポーランド公国として諸外国から認められるようになった。すなわちポーランドという国はカトリックを礎に成立した国であり、現在に至るまでカトリックを中心とした国家体制が築かれており、国民の約95%がカトリック教徒である。

 また現在は人種のるつぼと化しているポーランドだが、その歴史的背景は以下の理由による。

1. モンゴル帝国の侵攻でかなりの人口減になってしまった結果、ドイツ人殖民を多く受け入れたこと
2. 14世紀の西欧におけるペスト流行において「ユダヤ人の陰謀説」が広がり、最も寛容的な態度で多くのユダヤ人の受け入れを行ったこと(これは、ポーランドは独自の衛生習慣によってペストが発生しなかっため)
3. 近代~現代とドイツ(プロイセン)、ロシアから抑圧を受け続け、占領されていた時期も長く、混血が進んだ

 以上、ポーランドという国は「キリスト教(カトリック)によって立国」「多民族が織りなす人種的に寛容な国」というわけであり、国の存在自体がブラックメタルシーンと対をなすものであることがわかる。光が当たるところに影がある。

■ 東欧革命とブラックメタルシーンの自然発生

 第二次世界大戦が終わり、ナチスドイツから解放されたポーランドは長らく共産主義体制にあった。1989年に共産主義を倒す東欧革命が起きる訳だが、それ以前に目を向けると他の共産主義国家に比べるとかなり情報統制は緩かったようだが、それでも西欧と比べると閉鎖的なメタルシーンが形成されていた。例えばデスメタルバンドで有名なVadarは1983年に結成されているが、彼らの高い実力にも関わらず外国のレーベル(Earache)と契約するに至ったのは1990年であり、革命以降であった。

 そのような閉鎖的なシーンの中で最も有名になったメタルバンドはKATである。"処刑人"を意味するこのバンドは1979年に結成されたバンドで、当初はDeep Purple、Led Zeppelin、Black Sabbathといったバンドの影響を受けた音楽をやっていたが、1984年のデビューシングルではポーランド民謡や神秘主義といった歌詞をポーランドでは初めて取り入れている。さらにはサタニズムをテーマにすることもあり、ポーリッシュブラックメタルシーンの始祖的存在である。言わば西欧でのBathory、Sodomのような存在だったと言えるだろうし、そもそもポーランドのへヴィメタル/スラッシュメタル/ブラックメタルのいずれのジャンルにおいても先駆者であり、代表的な存在である。とりたてて後のポーリッシュブラック勢がKatの影響を公言していることこそないが(代表曲は純スラッシュメタルなものが多い)、日本で言うSabbat的な存在と思えば解りやすい。

 そして、その東欧革命が起きた1989年だが、これはちょうど世界的なメタルシーンにおいてもデスメタルというジャンルの確立、もしくは1st-wave ブラックメタルシーンの発芽が世界的に現れだした頃である。例えば以前のコラムにも示した通り、BeheritやArchgoatがブラックメタルをやりだしたのもこの年であるが、ポーランドにおいてもブラックメタルの最初期バンド、Pandemoniumが結成されている。彼らのジャンルは現在、改めて区分するとしたらBlack/Deathというものに区分されるであり、言わば1st-wave Black Metalのスタイルだと言える。影響としてはHellhammer、Celtic Frost、Samaelの名前を上げており、特にSamaelの影響を強く感じる。このようなスタイルのバンドが世界で同時多発的に発生したこと、しかも革命前後のまだ閉鎖的なポーランドでも起きていたことは特筆すべきことではなかろうか。

 他にこの界隈ではBundeswehra、Necrochrist、Tranisといった同様の志向性を持つ1st-wave Black Metalのバンドが現れた(もっとも私はこの3つのバンドの音源は未聴で手にも入らないと思う)。それらはのちにあの"Temple of Fullmoon"に敵視されることになる。

■ 終わりに

 まずはポーランドがどういう国か述べて、ヨーロッパの中でも異質な国であることを認識し、そのうえで共産主義崩壊以前と閉鎖的なシーン、そして崩壊後に出てきた1st-wave ブラックメタルシーンについて紹介した(なお、後に言及するがPandemoniumは今でも"Dark Metal"だとしながら活動を継続していることも付け加えておこう)。

 次回はいよいよTemple of Fullmoonというブラックメタルサークルの結成に話は及んでいく。彼らも他の国のシーンと同様にデスメタルの要素が多分に残ったブラックメタルをプレイしていたバンドに対して大きな憎しみを抱いており、ポーリッシュアンダーグラウンドシーンにおける争いが勃発することになる。

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