【column】 Polish Black Metal Scene - II 

【前回】 Polish Black Metal Scene - I

■ The Temple of Fullmoon

 ブラックメタルのことに興味がある方であれば恐らく一度は耳にするであろう"The Temple of Fullmoon"とは、これはノルウェーの悪名名高き"Inner Circle"に触発されて、ポーランドで90年代初頭に結成されたサークルである。"Inner Circle"に触発されただけに、彼らは2nd-wave Black Metalであるノルウェイジャンブラックの流れを汲んだブラックメタルをやるようになり、そのサタニズム信奉においてはトレンディー音楽と目されたデスメタルを"偽物"だとして完全否定し、憎しみの対象とした。それが先述したPandemoniumなどのバンドである。

 "The Temple of Fullmoon"に属していたバンドの特徴としてはノルウェイジャンブラックの影響を大きく受けつつも、

 1. ケルト音楽由来のフォーキッシュなメロディが含まれる
 2. 政治的な主張(NS)とリンクしている
 3. バンド間でメンバーの重複が多い

といった特徴がみられ、それらのうち1.は現在のポーリッシュブラックメタルシーンの作品にも受け継がれている。

 また諸外国のブラックメタルマニアにおいてはノルウェイジャンブラックが90年代初頭のうちに没落していった中で、その情報のなさからその活動が神秘的に映ったようだ。そのため "the Next Norway" とも称されたという。実際、"Temple of Fullmoon" そのものに関する文献は昨今、ウェブ上でもあまり見ることができない。それはまずフランスのLLNで見られたような、彼ら自身が発行した身内向けのZineすらなかったためだと思われる。またポーランド人は英語が公用語ではないことも理由の一つであろう。サークルのメンバーとしては、記載がある限り、Mysteries、Inferum、Fullmoon、Graveland、Veles、Legionといったバンドだと思われる。

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メンバー全員で撮影した写真。ハーケンクロイツを掲げている。


 また、当時はフランスのLLNのメンバーとも交流があったようだ(LLNのコラム参照)。面白いのはLLNの舞台もカトリック教会の力が強い地域だったことである。ただしこのポーランドという地域ではその影響力が段違いに大きかった。LLNは教会を焼かなかったのに対して、ポーランドではそれが起きたのはその点も加味する必要がある。このあたりはGravelandのDarkenがインタビューで答えている内容が興味深い。

with Darken (Graveland)

西欧とは違いポーランドは熱狂なカトリック国で、教会の政治的影響力は生活にまで及んでいる。ポーランドのブラックメタルアンダーグラウンドにおいて見られる強烈なキリスト教への嫌悪はそのカトリック社会への嫌気から来ている。教会は我々を捻じ曲げ、精神を犯してくる。それは家族を通じて辿りつくのだ。これはとても難しい問題だよ。

今日、ポーランドにおいても大きな都市においてはカトリック教会の役割は弱まっている。しかし小さい町にはまだ多くの若いブラックメタルミュージシャンたちとリスナーがいるよ。それは教会の役割がまだ大きいからだ。反キリスト教という考えはまだ生きているし、ポーランドでは根強いんだ。

若者が権力に抗うと言う行為は実に自然なことだが、ことポーランドにおいては家族から強く糾弾されることになる。家族は教会に強く依存しているのだからな。家族に多くのルールを強制される。例えば毎週日曜は教会に行くとかだ。それを守らなければ家族から精神的な迫害を受けることになるのさ。やがてその若者は圧力に屈し、教会にとって"善い"方向に引き戻されてしまう。これは私自身の経験から良く知っているのさ。家族は私を怨んだ。私はカトリック教会が欺瞞の塊であり、尊敬に足らないことをそこで理解したのだ。


 本コラムのPart.1ですでに書いた通り、ポーランドという国の成り立ちはカトリック信仰と密接であり、また歴史的過程を経て多民族国家でもある。そのような中でポーランドの若者はカトリック信仰への否定をしたときに、それに代わるアイデンティティがその混血が故に確固たるペイガニズムとして紡げなかったことが、このThe Temple of Fullmoonの存在理由に繋がっていると思われる。だからこそこのサークルの活動はアンチクライストとNS思想を根本とするのだ。これは以前のNSBMのコラムで書いた通り、ネオナチ活動においてそのすそ野を広げるためにスラブ系などの民族もアーリア民族に見做すようになってきたためであろう。

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 The Temple of Fullmoonの影響を受けて、サークル外においてもLord of Evil/War88、Gontyna Kry、Kataxu、Thunderboltといったバンドもシーンに登場してきた。いずれも先ほどのような特徴を持っており、ポーランドはNSBMの大きなシーンと目され始めた。トピックとしては元Gravelandのドラマー、CapricornusがドイツのNSBMバンドであるAbsurdのデモ"Thuringian Pagan Madness"をポーランドにてリリースしている。Absurdのメンバーが殺害した少年の墓をジャケットに使用し、ナチスのステイトメントをモチーフにして獄中で作成した曰くつきのデモであった。

 しかしながら、このようなサタニズムとNS思想のダブルスタンダードは歪を含有していた。やがてそれらの思想は徐々にかい離し始めた。

with Darken (Graveland)

初期のGravelandはサタニズムとペイガニズムを組み合わせていた。私はペイガニズムについて表現したかったから、区別するためにGravelandは一人でやることにしたのさ。

やっている音楽はNSBMではない。そう思われるのは私の持つ政治的姿勢によるものである。しかし私にとっては神秘主義と古代ペイガンがもっとも重要であり、政治的思想はプライオリティが低い。Gravelandはバンドであり、何より音楽であることが最も重要だ。NSBMとは違うと考えている。


with Paimon (Thunderbolt)

俺たちがポーリッシュブラックシーンに加わったころは、Graveland、Fullmoon、Infernum、Velesが唯一のシーンだった。93年のことだ。だからNSBMに同一視された。しかし98年頃にはそこから抜け出した。俺たちには全くそんなポリシーがないからだ。だって俺は個人主義を信奉しているし、宗教もポリシーもいらない。白人だろうが黒人だろうが何だろうが、すべての人間には同様に価値がない。

NSBMという存在理由はとても複雑な問題ではあるが、私個人としては数年前に人間や人種についての興味を失ったよ。時々、古代文明の書物に目を通したりはするけれどもね。俺の主張としては、ブラックメタルと社会問題を政治的にミックスしていることは間違えだったということさ。ポリシーっていうのは飼いならされた羊のように、人をコントロールするものだ。

もちろん俺はアンチクリスチャンだが、そのイデオロギーにキリスト教は一切関係がないし、スラヴィッシュとかそういう人種の類とも関係ない。俺を超える神などいないのさ。ブラックメタルにおけるペイガニズム、ヒーゼニズムの類はお間抜けだ。ブラックメタルは悪魔主義(個人主義のことだ)に限るべきだ。


 このようにしてThe Temple of Fullmoonは思想・信条の乖離から解散していったようであるが、中枢にいた人物たちは各々の信条を持ってバンドを各自続けていったし、その過程でThe Temple of FullmoonのChildrenと言えるバンドも現れてきた。


■ おわりに

 Part.1ではポーランドという国の説明とポーリッシュブラックメタルの成り立ちを紹介し、Part.2ではこの国のブラックメタルにおける中枢とも言うべき、The Temple of Fullmoonについて紹介することで、なぜこの国のブラックメタルにおいてサタニズムとNS思想がクロスオーバーしたかについて、インタビューにおけるコメントなどを挟みつつ説明した。本当はもっとこのサークル自体について、様々な記事を取り上げることも考えたが今回はあえて割愛した。

 次回はThe Temple of Fullmoon外の90年代初頭のポーリッシュブラックメタルシーンについて紹介し、続いて90年代後半から現在にかけてのポーリッシュブラックメタルシーンの状況、最近の活躍しているバンドについて紹介していく。

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Pagan Fury : Evil (2004) 

ブラジルのNSBM/プリミティブブラックメタルバンド、Evilの初期音源集を紹介。
ロシアのHexenhammer RecordsStellar Winter Recordsのサブレーベル)よりリリースされた。

evilc

バンド結成の1994年から1996年まで3年間にリリースされたデモ音源のコンピ。
とかく音源をリリースしているこのバンドの最初期のサウンドを聴くことができる。

バンドメンバーは当時、The Pagan Frontにも所属していた生粋のNSBMバンドで、
この頃の彼らはIldjarnBranikaldの間くらいのミニマルさを持っているが、
更にポーランドのVelesなどのブラックメタル勢の"地味さ"も抽出して配合されているのが特徴。

人によってはこの音源はポンコツ度合いの愛敬を通り越してダメだと言う人もいるが、
私も繰り返し繰り返し聞こうとも思わないけれどもたまに聴くととても良い。
この尋常じゃない初期衝動のにじみ出てくる"危うさ"は他ではなかなか聞けるものではない。


Encyclopaedia Metallum - Evil
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