【column】 Les Legions Noires - III 

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 【column】 Les Legions Noires - II


■ 続き

  今回で第三回目となるLLNコラム。実を言うとこんなに長くなるつもりはなく、元々は自分があまりに手元にあるフレンチブラックを持て余し気味だったことから、その本質に触れることで腰を落ち着かせてフレンチブラックを聞き込んでいこうとするためのものであった。しかしVlad Tepesのインタビュー記事などから、トゥルーブラックメタルとは一体何なのだろう、という思案に至ったのが前回までの流れだった。

 今回は話を本筋に戻すべく、LLNというアンダーグラウンドサークルが与えたフレンチブラックシーンの寄与について眺めていく。それをすると前回書いたとおり、Mütiilationの特異性が浮かび上がってきたので、それを中心に本稿をまとめることにする。

■ MütiilationのLLN脱退

 MütiilationはLLNの中でも最も有名なバンドだろう。それはLLNがフェードアウトした後も生き残り続け、そしてフレンチブラックメタルシーンに大きな影響を与えてきたからだ。つまり最もオーバーグラウンドな性質を持ったLLNのバンドがMütiilationということになる。1995年にLLN内で製作されたファンジン"The Black Plague - First Chapter (And Maybe Last One)"はMütiilationのMeyhna'chが作ってインタビュワーなども務めたらしい。

 しかしMeyhna'chは1996年にドラッグの問題でLLNから追い出されている。どうやらかなり重度のジャンキーだったようだ。ドラッグとブラックメタルに纏わる話に関してはそれだけで一つのトピックになりそうだが、ここでは触れない。しかしドラッグが原因で脱退させられたということは、それがLLNという組織においては御法度だったということだろう。もしくは単純にジャンキーだったMeyhna'chが手に負えなくなっただけかもしれないが、いずれにしてもLLNはその後、闇に還り、Mütiilationだけが残った。

 MütiilationもLLN脱退後、しばらく音源をリリースしていなかったが、1999年にDrakkar Prod.からコンピレーションアルバム"Remains of a Ruined, Dead, Cursed Soul"をリリース。それは主に1991~95年の音源のコンピで、一部未公開のものも収録されていた、そしてライナーノーツには「Meyhna'chはブラックメタルシーンのトレンディ化に失望して既に死んでいる」と書かれていたのである。つまりLLNのフェードアウトと同調したように、Mütiilationも闇に還ったのだと思われた。

 しかし2001年に"Black Millenium (Grimly Reborn) "がDrakkar Prod.からリリース。なんと「まだ埋葬されていない」「死んだ身体で音源を作った」などと書かれていて、正直なところかなり俗っぽく感じてしまう。この年にはフランスで2回ほどライブにも出演、肩書きからLLNという枷がとれたからなのか、それともドラッグの後遺症から復活したからなのか、かなり"活発的"に活動しだし、当初のLLNというアンダーグラウンドサークルの理念から完全に逸脱し始めた。そして彼の活動はMütiilation一つに留まらず、様々なフレンチブラックシーンとの交流をし始めた。


■ Mütiilationから広がるフレンチブラック

 このようにLLNの枠組みからはみ出したMeyhna'chの人脈構成図を以下に示す。ご覧の通り、フレンチブラックの現在でも著名なバンドに大きな関連を見出せるだろう。

around_LLN
(クリックで拡大)

 Malicious Secretsはたった3つの音源しか残していないのだが、そのうち"From the Entrails to the Dirt"というフレンチブラックメタルのスプリットはMutiilation、Antaeus、Deathspell Omegaも参加している超豪華音源で、その中でもMalocious Secretsの音源が収録されているだけに価値が高いものになっている。サウンドの方もいわゆる自殺系ブラックメタルとは全く異なったブチ切れ系病みブラックメタルを展開し、まさしくカルトなものになっていて、LLNのカルト性が直接伝承されたと言えるだろう。

 またMalicious SecretsのメンバーであるTNDはフレンチブラックメタルレジェンドであるHirilornのメンバーでもある。更にHirilornが母体となってDeathspell Omegaが結成された。HirilornとDeathspell Omegaについてはいつか取り上げる予定なのでここでは説明を割愛するが、この人脈の繋がりこそがフレンチブラックメタルの本流であるようにも感じる。またその流れでフィンランドのClandestine Blazeも人脈筋となる。

 TND氏と共にCelestia(2012年来日した)を組んでいたNoktuはDrakkar Prod.のオーナーで上記リリースを行っていたこともありMeyhna'chとはかなり縁が深く、CelestiaメンバーもMütiilationのライブサポートも行っていた。確か2001年のライブもサポートで入ったはずである。さらにMeyhna'chとNoktuはGestapo666というバンドも結成している。Gestapo666自体はNoktu以外のメンバーは流動的だったようで、Meyhna'chの参加は初期音源だけのようであるが、こちらもまさにアンダーグラウンドを表現するようなLLN継承サウンドだった。

 そのNoktuはAlcestのNeigeと共にMortiferaもやっていたし、更にその筋で辿っていくと現在のフレンチブラックの最先鋒であるPeste Noireにまで行き着く。ここまで辿り着くとだいぶ"表"に出てきたな、という印象ではあるが、特にPeste Noireのデモを聞けばLLNから伝承されてきたカルトプリミティブブラックというものを感じるだろうし、更に1stでは中世秘密結社的な怪しさがあって、LLNから受け継いだカルトさを彼らなりに展開した結果とも言えるだろう。

 他にMeyhna'chが直接的に関わったバンドと言えばHell Militiaである。こちらはどうやら2012年に脱退してしまったらしく後任にはBethlehemのメンバーだったRSDなる人物が入ったようだ。Hell Militia関連ではメンバーがTemple of BaalやEpicといったバンドをやっていたこともあり、ここまでいくとフレンチブラックの有名なバンドのかなりを網羅しているような人脈筋である。


■ その後

 Mütiilation自体は復帰後、4枚のフルレングスを含む複数の音源をリリース、先に紹介した"From the Entrails to the Dirt"の他にも、Deathspell Omegaとの有名なスプリット、更にはフィンランドのSatanic Warmaster、オーストラリアのDrowning the Lightとスプリットをリリースした。特に後者のスプリット"Dark Hymns"はLLN活動時には散々こき下ろしていたフィンランドのブラックメタルバンドとスプリットを出したのがトピックであった。しかしSatanic Warmasterは広義にはノルウェイジャンブラックのフォロワーであり、90年代初頭のフィンランドブラックとは全く異質のものであるから、精神面など与し易かったとも言えるだろう(次はArchgoatのインタビュー記事のコラムを書くのでその時にまた書くが、トゥルーフィンランドブラックとは断じてHornaやSatanic Warmasterのようなものを指すのではないといいたい!)

 そして2009年に解散、Mütiilationも闇に還った。今、Meyhna'chはO.D. Sanctusという名前で新しいプロジェクトを進めている。またMeyhna'chはSektemtumというブラックメタルバンドにも昨年加入した。まだ未聴なので言及は避けるが、とどのところ、彼は表現者というよりミュージシャンなのだろう。ゆえに彼はLLNというカルトサークルのサウンドをオーバーグラウンドに引き上げて、そしてそれをフレンチブラックシーンに拡散したのだ。


■ 終わりに

 今回のコラムは終わりが見えないまま書いていた感じになったが、つまりLLNというカルトサークルの思想と神秘主義、コマーシャリズムに侵されたブラックメタルシーンの破壊と、本来あるべき"闇"にそれを戻すというのがLLNの目的であったが、その中で唯一、Meyhna'chのみが逸脱し、その結果としてフレンチブラックシーンに多大なる影響を及ぼして、現代でも活躍するバンドにLLNのエッセンスを継承することができたと言えよう。

 LLNは決して音源に希少価値があったからカルトだったのではない。なるべくしてなった、目的があったからそうなったのであろう。そしてそれは誰しも聞けば解るとおり、サウンドにしっかり反映していたのだ。そして今では主にそのサウンドがMeyhna'chによって各バンドに引き継がれ、各々のバンドの思想哲学を基盤として今も聞くことが出来るのだ。

 今回のコラムでは自分自身、なぜブラックメタルを聞くのか、ということを探求する切っ掛けとなった。さて、皆さんはなぜブラックメタルを聞くのでしょうか?たまにはその表面的な音の配列にのみ関心を寄せるのではなく、じっくり考えてみるのもまた一興かもしれません。
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