【column】 NSBMとは一体何か? - II 

■ 前回

【column】 NSBMとは一体何か? - I
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■ 続き

 前回のコラムではネオナチに関する説明と、何故その影響がヨーロッパ中に波及していったか言及した。今回のコラムからようやく音楽に纏わる話に移る。まずはネオナチ思想、もしくはアーリア人至上主義的思想がどのように音楽とリンクしていったのかを簡単に触れて、その後にNSBMの興りについて説明していくことにする。

 ちなみに、今回言及する70年代後半からのパンク/ロックと白人至上主義(レイシズム)の結びつきについてなど当時の知識についてはかなり浅く、訂正されうる箇所も多いと思うので、何か気付かれましたらコメント乃至ツイッターなどで連絡いただけたら助かります。

■ プロパガンダと音楽の関係

 プロパガンダと音楽の密接な関係はご存知の通りであろう。例えば軍歌、革命歌などもそれに当たる。特にナチスドイツはラジオを爆発的に国民に普及させることで、演説などと共に音楽を定常的に国民に聞かせて、国民の高揚と共に繰り返しの歌詞による洗脳活動を行った。戦後はラジオ、テレビ、更にインターネットなどメディアの進化と普及に伴い、国主導でなく民衆からも新たなムーブメントが出てきている。その場合、明確な意図があって自発的な活動を行うのではなく、受動的であった人が発信するようになったとも取れる。昨今、ネット界隈を賑わしているネトウヨなる人たちも明確なプロパガンダを行っているのではなく、本人たちも気付かないうちに参加しているようにも見受けられる。いずれにしても我々はそのようなプロパガンダと常に密接するようになったと言っても良いのではないか。

 閑話休題、1970年代にイギリスで発祥したとされるOi!Punkはパンクロックのサブジャンルで、主に労働階級層から支持されていた。そのため、発祥当時には労働者の怒りなど社会的抑圧からの反発による内容をテーマにしたものが多く、右翼的思想に直接与するものではなかった。
しかし一説によると1982年に勃発したフォークランド紛争がイギリス国民の右翼的思想を扇情したこともあり、Oi!Punkの持つ直接的なメッセージに右翼的な内容が反映されだした。直接的なメッセージを持ち、音楽的にも高揚感が得られることから、プロパガンダの側面も否めない。その観点からネオナチやスキンズに支持されたこともあり、いつしかOi!Punkは右翼思想を持つ音楽として見られるようになった。そのため実際のところ、右翼思想を伴わないOi!Punkも存在することは併記しておく。

 またRock Against Communism(RAC)も1970年代後半に出現したロックのサブジャンルである。こちらは1976年に起こったRock Against Racismというレイシズムを否定する音楽運動に対するアンチテーゼであり、アンチコミュニズムをテーマにするというよりレイシズム、ネオナチをテーマにしたロックであった。そのため、こちらは初期からかなりネオナチ思想、もしくはその組織と縁の深いジャンルでもあり、音楽性を定義するジャンルというより思想との結びつきが強いジャンルである。

 これらのジャンルの隆盛から、元来パンク/ロックが持っているシンプルなメッセージ性と音楽性、それに高揚感というものとプロパガンダの関係性を見出すことができる。一方で、恐らく該当バンドにおいて彼らが深く思想を伝播しようと考えるものは少ないように感じる。海外に在住していた人から聞いた話だが「皆、人種差別には敏感だけど、アルコールが入るとまるで"本性"が出たかのようにレイシストになる人がいる」らしく、我々にはなかなか理解できない話かもしれないが、予想以上に白人至上主義の根は深い。つまり彼らとしてはプロパガンダという意識もなく"当然"、世界観を取り入れたのではないだろうか。もしくは抑圧からの解放を目的に、反社会的行動としてそのような非人道的ともとれる発想をロックに取り入れていったとも考えられる。

 その辺りの事情はバンドによって様々であろうが、このような素地がこれから話すNSBMの創成に関わってくる。

■ NSBMの興り

 ここまで来てようやく本コラムの主題となるNSBMの話にたどり着く。NSBMというジャンルを定義付けたのはドイツのAbsurdだとされているのは有名な話だ。実際、プリミティブブラックメタルにおいてネオナチ思想を導入したものはAbsurd以前から存在していたわけだが、上記、Oi!PunkやRACの系譜としてこのバンドを第一に挙げざるを得ない。

 Absurdは1992年に結成。当時、彼らは中学~高校生のティーンネイジャーで、Oi!PunkやRACの影響を強く受けていた。更にDanzig、Mercyful FateのようなHR/HMも好んで聞いていたという。結成後、4年間で複数のデモ音源をリリースした後、1stアルバム"Facta Luquuntur"を発表。この内容を聞けばわかる通り、Oi PunkやRACのような音楽性を非常に大きく反映しており、そこにHR/HMの旋律を持ち込んだものになっている。もっとも単純にOi!Punkとメタルの歩み寄りを図った音楽は今までにもあった。最近、筆者が大いにハマッているThe BloodというOi!Punkバンドのサウンドもそのようなサウンドのように感じる。

 それではAbsurdの何がジャンルを定義付けるのに至ったかといえば、やはりネオナチ思想に裏付けられたドス黒い初期衝動であろう。これは従来の右翼思想的音楽ともブラックメタルとも異なる異様なカルトさから感じ取ることが出来る。歌詞自体に直接、ネオナチ思想を表現するものはないように感じるのだが、楽曲のタイトルに"Werwolf"とつけるなどナチス関連の単語が散見されるなど、主張をカルトな形で神秘的に露出している。これはOi!Punkの持つ直接的なメッセージ性から反するし、音楽性から取ってみても高揚感ではなくカルトとしか言いようがない怪しさを持っている。これはメタルを足し合わせたから、とも思えない。それより、彼らが行った融合というものはただ単なる"足し算"ではなく、合成による化学変化だったと考えている。計算内だったのか、それとも本人たちも意図しない奇跡的なバランスで生み出されたものなのか、そこは全く解らないが、完成されたものは最も神秘的な形で邪悪な初期衝動のみが醸し出される形になって現れ、それを我々はカルトなサウンドとして受け取ることになったのだろう。

、なお、彼らのデモ音源のライナーには「ある日、世界はヒトラーが正しかったと知ることになるだろう」と記述されており、明確な意思表示も見受けられる。そして驚くべきことは、これらの活動をドイツで行っていたことである。ドイツ国内ではナチス賞賛を罰する「反ナチス法」が存在するためだ。逆に言えば、これから言及するNSBMバンドの多くがドイツ国外のバンドであることも一つにその法律のためだとも思われる。そしてAbsurdがこのようなアピールをドイツ国内で行っていたことに、文字通りの若さゆえの"アウトロー"的な意図を垣間見れる。また、1stアルバムリリース前にメンバーは私怨で殺人を犯し、その被害者の墓を先ほど言及したデモ音源のジャケットにしてしまったという辺りにもそのようなものが感じ取れる。彼らは当然懲役刑にあったわけだが、仮出所時に作成した"Asgardsrei"はインナーといい挿入されているSEといい、どうしようもないくらいヒトラー賛美を行っており、そのチープなポンコツパンクメタルと共に強烈な印象を残している。このEPのリリースに当局も動き(何しろ違法行為である)、仮出所は取りやめられ、そのままオリジナルメンバーでのAbsurdは解散した。今でもAbsurdはオリジナルメンバーなきまま活動を継続しているが、内容としてはペイガンメタル然した内容になっている。またオリジナルメンバーのHendrik MöbusはDarker than Black Recordsのオーナーであり、このレーベルからはAbsurdの他に様々なNSBMをリリースすることになるが、それはまた別の話。

 以上、Absurdについてまとめると、彼らが行った活動は決して政治的思想に基づく信念に沿って行われたというより、Oi!PunkやRACなどの影響を強く受けて育ったティーンネイジャーがメタル的なエッセンスを施して奇跡的なバランスを形成し、それによってカルトさを創出するに至った。それはアンダーグラウンドで騒がれていたプリミティブブラックメタルの根底にあったサタニズム的邪悪さとは全く異なるカルトさであり、異形のものとして一部で神格化されていった。そのため音楽性とは別のファクターでブラックメタルにカテゴライズされていった。いわばブラックメタルという秩序の破壊と、極端な話「何でも有り」というNSブラックメタルというジャンルの創成である。そのため現在、NSBMというジャンルはその音楽性を単一なものとして語れなくなっているのである。

■ おわりに

 以上、長くなってしまったので今回はここまでにしておく。今回は音楽とネオナチ思想のリンクについて立ち返って述べ、その系譜として生まれた異形にしてNSBMのパイオニアとされるAbsurdについて紹介した。次回はプリミティブブラックメタル界隈におけるネオナチ思想の発芽についても述べ、NSBMの中にもAbsurdを標榜する「何でも有り」派と、あくまでプリミティブブラックから派生した「プリブラ・NSBM」派と、それら両方の影響を受けたバンドについて紹介していく。また以前から書いている通り、ペイガンメタルについても言及したい。
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