Raiders Of Revenge : V/A (2000) 

ポーランドのブラックメタルバンド、GravelandとRACバンドのHonorのスプリットを紹介。
アメリカのResistance Recordsよりリリースされ、今年にポーランドのWitches Sabbath Recordsからも再発された。

graveland_s1.jpg

前にGravelandはNSBMではない云々みたいな話もあったが、
このレーベル、思いっきり白人至上主義のもので
スプリットのお相手も生粋のRACバンドでどうなってるの。

という突っ込みは置いといて、まずHonorは1989年に結成したRACバンドで、
RAC自体はあまり聞いたことが無いがへヴィメタル好きでも通用するサウンド。
ヴォーカルスタイル的にはまさしくスキンズ的でNSBMを聴く人なら慣れたもの。

一方でGravelandはまさしくこの00年頃の彼らの作風を反映させた、
決して走ることの無い実直なペイガンブラックをプレイしていて、
Bathoryの5thアルバムあたりの作品にミサントロピックな要素が追加されたような感じ。

このスプリットを手にするということは何らかしらポーリッシュシーン、
もしくはどちらかのバンドに興味がある人であるということだから、
十分満足できる作品ではなかろうか。

Encyclopaedia Metallum - Graveland
Encyclopaedia Metallum - Honor
タグ: Graveland  Honor  NSBM  Poland 
Black  /  tb: 0  /  cm: 0  /  △top

United Aryan Evil : Fullmoon (1995) 

ポーランドのブラックメタルバンド、Fullmoonのデモを紹介。
GravelandのRob Darkenの運営してたIsengard Distribution(後のEastclan)よりカセットでリリースされ、後にBlutreinheit ProductionsからCD/LPリリースされた。
また昨年にはAncient Order Productionsからカセットでリマスター再発された。

fullmoon.jpg

ポーランドのブラックメタルサークル、The Temple of Fullmoonを象徴する1枚で、
また、このバンドのオフィシャルな作品はこのデモのみである。
1曲目のインストはRob Darkenがコンポーズしていてやっぱり女性の叫び声が。

まさにポーランドの街をハーケンクロイツ旗を掲げながら練り歩いていたときのもので、
サウンドの根底に流れるどことなく悲しげなケルト音楽のリフを基調に、
誇りと憎しみ、そしてどことなく感じる憂いがあわさったプリブラになっている。

後のOhtarにもつながるメロウかつミサントロピックな奏では、
ポーランドアンダーグラウンドの一つの基本にもなったし、
またプリミティブブラックメタルのクラシックな一枚として今も語り継ぐ作品だろう。

Encyclopaedia Metallum - Fullmoon
タグ: Fullmoon  Graveland  個人的名盤  Poland  1991-1995 
Black  /  tb: 0  /  cm: 0  /  △top

【column】 Polish Black Metal Scene - II 

【前回】 Polish Black Metal Scene - I

■ The Temple of Fullmoon

 ブラックメタルのことに興味がある方であれば恐らく一度は耳にするであろう"The Temple of Fullmoon"とは、これはノルウェーの悪名名高き"Inner Circle"に触発されて、ポーランドで90年代初頭に結成されたサークルである。"Inner Circle"に触発されただけに、彼らは2nd-wave Black Metalであるノルウェイジャンブラックの流れを汲んだブラックメタルをやるようになり、そのサタニズム信奉においてはトレンディー音楽と目されたデスメタルを"偽物"だとして完全否定し、憎しみの対象とした。それが先述したPandemoniumなどのバンドである。

 "The Temple of Fullmoon"に属していたバンドの特徴としてはノルウェイジャンブラックの影響を大きく受けつつも、

 1. ケルト音楽由来のフォーキッシュなメロディが含まれる
 2. 政治的な主張(NS)とリンクしている
 3. バンド間でメンバーの重複が多い

といった特徴がみられ、それらのうち1.は現在のポーリッシュブラックメタルシーンの作品にも受け継がれている。

 また諸外国のブラックメタルマニアにおいてはノルウェイジャンブラックが90年代初頭のうちに没落していった中で、その情報のなさからその活動が神秘的に映ったようだ。そのため "the Next Norway" とも称されたという。実際、"Temple of Fullmoon" そのものに関する文献は昨今、ウェブ上でもあまり見ることができない。それはまずフランスのLLNで見られたような、彼ら自身が発行した身内向けのZineすらなかったためだと思われる。またポーランド人は英語が公用語ではないことも理由の一つであろう。サークルのメンバーとしては、記載がある限り、Mysteries、Inferum、Fullmoon、Graveland、Veles、Legionといったバンドだと思われる。

nsbm_pol.jpg
メンバー全員で撮影した写真。ハーケンクロイツを掲げている。


 また、当時はフランスのLLNのメンバーとも交流があったようだ(LLNのコラム参照)。面白いのはLLNの舞台もカトリック教会の力が強い地域だったことである。ただしこのポーランドという地域ではその影響力が段違いに大きかった。LLNは教会を焼かなかったのに対して、ポーランドではそれが起きたのはその点も加味する必要がある。このあたりはGravelandのDarkenがインタビューで答えている内容が興味深い。

with Darken (Graveland)

西欧とは違いポーランドは熱狂なカトリック国で、教会の政治的影響力は生活にまで及んでいる。ポーランドのブラックメタルアンダーグラウンドにおいて見られる強烈なキリスト教への嫌悪はそのカトリック社会への嫌気から来ている。教会は我々を捻じ曲げ、精神を犯してくる。それは家族を通じて辿りつくのだ。これはとても難しい問題だよ。

今日、ポーランドにおいても大きな都市においてはカトリック教会の役割は弱まっている。しかし小さい町にはまだ多くの若いブラックメタルミュージシャンたちとリスナーがいるよ。それは教会の役割がまだ大きいからだ。反キリスト教という考えはまだ生きているし、ポーランドでは根強いんだ。

若者が権力に抗うと言う行為は実に自然なことだが、ことポーランドにおいては家族から強く糾弾されることになる。家族は教会に強く依存しているのだからな。家族に多くのルールを強制される。例えば毎週日曜は教会に行くとかだ。それを守らなければ家族から精神的な迫害を受けることになるのさ。やがてその若者は圧力に屈し、教会にとって"善い"方向に引き戻されてしまう。これは私自身の経験から良く知っているのさ。家族は私を怨んだ。私はカトリック教会が欺瞞の塊であり、尊敬に足らないことをそこで理解したのだ。


 本コラムのPart.1ですでに書いた通り、ポーランドという国の成り立ちはカトリック信仰と密接であり、また歴史的過程を経て多民族国家でもある。そのような中でポーランドの若者はカトリック信仰への否定をしたときに、それに代わるアイデンティティがその混血が故に確固たるペイガニズムとして紡げなかったことが、このThe Temple of Fullmoonの存在理由に繋がっていると思われる。だからこそこのサークルの活動はアンチクライストとNS思想を根本とするのだ。これは以前のNSBMのコラムで書いた通り、ネオナチ活動においてそのすそ野を広げるためにスラブ系などの民族もアーリア民族に見做すようになってきたためであろう。

nsbm_pol2.jpg


 The Temple of Fullmoonの影響を受けて、サークル外においてもLord of Evil/War88、Gontyna Kry、Kataxu、Thunderboltといったバンドもシーンに登場してきた。いずれも先ほどのような特徴を持っており、ポーランドはNSBMの大きなシーンと目され始めた。トピックとしては元Gravelandのドラマー、CapricornusがドイツのNSBMバンドであるAbsurdのデモ"Thuringian Pagan Madness"をポーランドにてリリースしている。Absurdのメンバーが殺害した少年の墓をジャケットに使用し、ナチスのステイトメントをモチーフにして獄中で作成した曰くつきのデモであった。

 しかしながら、このようなサタニズムとNS思想のダブルスタンダードは歪を含有していた。やがてそれらの思想は徐々にかい離し始めた。

with Darken (Graveland)

初期のGravelandはサタニズムとペイガニズムを組み合わせていた。私はペイガニズムについて表現したかったから、区別するためにGravelandは一人でやることにしたのさ。

やっている音楽はNSBMではない。そう思われるのは私の持つ政治的姿勢によるものである。しかし私にとっては神秘主義と古代ペイガンがもっとも重要であり、政治的思想はプライオリティが低い。Gravelandはバンドであり、何より音楽であることが最も重要だ。NSBMとは違うと考えている。


with Paimon (Thunderbolt)

俺たちがポーリッシュブラックシーンに加わったころは、Graveland、Fullmoon、Infernum、Velesが唯一のシーンだった。93年のことだ。だからNSBMに同一視された。しかし98年頃にはそこから抜け出した。俺たちには全くそんなポリシーがないからだ。だって俺は個人主義を信奉しているし、宗教もポリシーもいらない。白人だろうが黒人だろうが何だろうが、すべての人間には同様に価値がない。

NSBMという存在理由はとても複雑な問題ではあるが、私個人としては数年前に人間や人種についての興味を失ったよ。時々、古代文明の書物に目を通したりはするけれどもね。俺の主張としては、ブラックメタルと社会問題を政治的にミックスしていることは間違えだったということさ。ポリシーっていうのは飼いならされた羊のように、人をコントロールするものだ。

もちろん俺はアンチクリスチャンだが、そのイデオロギーにキリスト教は一切関係がないし、スラヴィッシュとかそういう人種の類とも関係ない。俺を超える神などいないのさ。ブラックメタルにおけるペイガニズム、ヒーゼニズムの類はお間抜けだ。ブラックメタルは悪魔主義(個人主義のことだ)に限るべきだ。


 このようにしてThe Temple of Fullmoonは思想・信条の乖離から解散していったようであるが、中枢にいた人物たちは各々の信条を持ってバンドを各自続けていったし、その過程でThe Temple of FullmoonのChildrenと言えるバンドも現れてきた。


■ おわりに

 Part.1ではポーランドという国の説明とポーリッシュブラックメタルの成り立ちを紹介し、Part.2ではこの国のブラックメタルにおける中枢とも言うべき、The Temple of Fullmoonについて紹介することで、なぜこの国のブラックメタルにおいてサタニズムとNS思想がクロスオーバーしたかについて、インタビューにおけるコメントなどを挟みつつ説明した。本当はもっとこのサークル自体について、様々な記事を取り上げることも考えたが今回はあえて割愛した。

 次回はThe Temple of Fullmoon外の90年代初頭のポーリッシュブラックメタルシーンについて紹介し、続いて90年代後半から現在にかけてのポーリッシュブラックメタルシーンの状況、最近の活躍しているバンドについて紹介していく。

Next → 【column】 Polish Black Metal Scene - III
タグ: Column    Poland  Graveland  Veles  Fullmoon  Infernum  Thunderbolt 
その他  /  tb: 0  /  cm: 0  /  △top

Vertus Guerrieres : Nordmen (2003) 

カナダの独りブラックメタルバンド、Nordmenの1stアルバムを紹介。
テープで自主リリース(lim.50)した後、Nykta Recordsから再発された。

vertusguerrieres.jpg

Ur Falc'hForteresseでも活動しているAthros氏の独りブラック。
カナダらしい(といったら失礼だろうが)風景が目に浮かぶ荒涼感を感じつつ、
ケベック出身のバンドであるにもかかわらずフレンチブラックではなく、
どちらかというとGravelandのようなポーリッシュペイガンが思い浮かぶメロディライン。

また荒涼感と書いたがノルウェイジャンっぽいコールドブラックというより、
どことなくBurzumから派生したジャーマンブラックっぽいと言う感じで、
良い意味で地味というか地に足が付いた実直なメロディなのがグッとくる。

Athros氏は色々なバンドで結構忙しく、
このソロプロジェクトで2ndアルバムをいつ出すか不明だが期待したい。

Encyclopaedia Metallum - Nordmen
タグ: Nordmen  Forteresse  Graveland  Canada  2001-2005 
Black  /  tb: 0  /  cm: 0  /  △top

Raw Years 1993-95 : Arkona (2005) 

ポーランドのペイガンブラックメタルバンド、Arkonaの初期音源集を紹介。
ポーランドのUnder the Sign of Garazel Productionsよりリリースされた。

Arkona_c.jpg

ロシアの有名なフォークメタルバンドと同名だが、
むしろこちらは結成したのが1993年で昨年もアルバムを出したベテランである。
その彼らの初期音源集がこのコンピレーションとなる。

93~95年に製作されたらしいがノルウェイの影響を受けたと言うよりかは、
同郷のGravelandの初期作品のプリブラはミドルテンポの部分のみ受け継いでいると思うが、
彼らのオリジナリティというかミニマルなリズム感とシンセの挟み方が独特で、
寒々しいコールドブラックという範疇ではあるが異彩を放っている。

設立メンバーの唯一の生き残りであるKhorzon氏は、
現在はPandemoniumにも所属していてこちらもポーリッシュブラック重鎮。
なおたまにNSBMカテゴリーに入れられているがバンド側は否定している。

Encyclopaedia Metallum - Arkona
タグ: Arkona  Poland  Graveland  Pandemonium  2001-2005 
Black  /  tb: 0  /  cm: 0  /  △top

Live in Eternal Sin / The Speed of Darkness : Iuvenes / Leviathan (2003) 

ポーランドのIuvenesとアメリカのLeviathanによるブラックメタルのスプリット盤を紹介。
ドイツのNo Colours Recordsよりリリースされた。

Leviathan-Iuvenes

Iuvenesは当初はダークアンビエントっぽいことをやっていたが、
このスプリットでは初期Gravelandもどきのプリブラをプレイしている。
ドラムマシンを使用しているようだがあまりそれを感じさせないし、
何より楽曲がなかなか素晴らしく古き佳きポーリッシュブラックといったところ。

Leviathanはデプレブラックの大物といった印象だが、
私はこれが初だったのでどういったものかと聞いてみたら、
Burzumを通過しつつ、より耳馴染みの良いメロディをベースに、
なるほどいわゆるデプレブラックの構成であろう。

前者は初期Graveland好きには是非お勧めしたいし、
後者も一度Leviathanの曲を聴いてみたい程度の人には十分。
なかなかの良スプリット。

Encyclopaedia Metallum - Iuvenes
Encyclopaedia Metallum - Leviathan
タグ: Iuvenes  Poland  Leviathan  USA  Graveland  2001-2005 
Black  /  tb: 0  /  cm: 0  /  △top

May The Hammer Smash The Cross : Thor's Hammer (2000) 

ポーランドのNSBMバンド、Thor's Hammerの2ndアルバムを紹介。
ドイツのAncestral Researchよりリリースされ、イギリスのSupernal Musicから再発された。

thorshammer2

GravelandCapricornusによる独りNSBMプロジェクトで、
このアルバムではギターにBoleslawなる人物が参加している。
また友情出演?でGravelandのRob Darkenがイントロを製作している。

音質、演奏ともにロウなサウンドで、陰鬱でミドルテンポも多いが激しさが見え隠れするプリブラ。
歌詞を観ればいかにもNSBMチックな文言が並んでいたり、
最後にはAbsurdGates of Heavenをカバーしていたり、
いかにもなのだが、音自体はポーランドのプリブラらしい内容と言える。

個人的にはGraveland、Fullmoon、Ohtarあたりの最重要ポーリッシュブラックバンドに比べると、
内容としては一つ格が落ちるような気もするのが、
ポーランドのプリミティブブラック人脈筋を追っていくと避けられないバンドだろう。

Encyclopaedia Metallum - Thor's Hammer
タグ: Thor's_Hammer  Absurd  Graveland  Fullmoon  Ohtar  Poland  1996-2000 
Black  /  tb: 0  /  cm: 0  /  △top

【column】 NSBMとは一体何か? - IV 

■ 前回

【column】 NSBMとは一体何か? - III
http://staymetal.blog8.fc2.com/blog-entry-550.html

■ 続き

 前回は、NSBMはAbsurdのような異端にして自由な表現を用いていたバンドをパイオニアとしながらも、音楽性としてはAbsurdタイプの他にも、様々なものがあることを語った。今回はコラムの本筋からは少し外れるが、ペイガニズムについて触れることにする。NSBMの歌詞テーマにもなる北欧神話などのペイガン世界を理解し、NSがどう繋がっていくか理解することで、ペイガンブラックとNSBMの曖昧な境界線を少しでも明確にすることが目的である。
その他、ブラックメタルのバックグラウンドにも大きな関係があるのでご容赦の上、ご一読願いたい。

■ ゲルマン人と北欧神話

 現代の感覚では「ゲルマン人=ドイツ」という感覚だが、ゲルマン人とは北ドイツからスカンジナビア南部に至るまで広範に所在した諸部族のことを指す。そのため、実のところ北欧民族として「ゲルマン民族」というような民族共同体は存在しない。しかし「アーリアン学説」においてゲルマン人こそが優等性を保有するとし、アーリア人(高貴な者)と名付けられた。それを利用したナチスドイツによって人種政策として「ゲルマン民族」という概念が創出された。

odin.jpg 古代、ゲルマン人は各地方に点在していたが、やがて気候変動や他民族の圧迫などで移動し始め、他民族との同化などが行われていき、現在のヨーロッパ諸国の形成が行われていった。ドイツもその一つである。それを「ゲルマン人の大移動」という。一方で、大移動に参加せず北欧に残ったゲルマン人はノルマン人と呼ばれた。彼らは中世時代にはスカンジナビア半島にてヴァイキングと呼ばれるようになる。ヴァイキングとは海賊のことではなく、彼らが地勢的観点から航海術が巧みになったためにしばしば武装船団を形成しており、それが現在のイメージに繋がっている。つまりヴァイキングもルーツはゲルマン人ということになる。

 一方で、移動したゲルマン人は各地域の民族と同化し、やがてキリスト教化していくことになるのだが、その前に信仰の対象としていたのが「北欧神話」である。勿論、移動しなかったヴァイキングも北欧神話を信仰の対称にしていた。各地に散ったゲルマン人が「北欧神話」のうちオーディンを信仰の最も重き対象にしたのに対して、ノルマン人(後のヴァイキング)はトールを信仰の対象にしたのは面白い。この辺りに地勢的観点における神話への見る目の違いが現れている。

■ ペイガニズムとは

ペイガン(pagan)とはラテン語の「田舎の」を意味する単語を語源としている。キリスト教化は都会で浸透したため、保守的な田舎の人々には浸透せず、それはしばしば非信仰者としてペイガンと形容された。そのため、当初は侮蔑語として用いられる時代が長く続いたが、現在では(ネオ)ペイガニズムとしてキリスト教以前の自然宗教ないし自然を基盤に持つ精神世界を取り戻す運動の総称になった。これには当然、北欧神話も信仰の対象に含まれている。

Pagan_Symbols_Brushes_5_0_by_DeviantNep.jpg そのため、ナチズムなどに見られる民族優越性に前提としたナショナリズムとは、自分たちのルーツに誇りを持つという点で親和性を持ちつつも、レイシズム的思想は含まれていない。言わば、自分たちのルーツを多文化主義から守っていくという動きであり、他のルーツを持つ者に対する「優越性」を見出すようなものではないということである。

 また、ペイガニズムの類語として、ヒーゼニズムという言葉も存在する。ヒーゼン(heathen)とは「異教の」を意味する単語で、ペイガンとほぼ同じ使われ方をしてきた。これらの現在での使われ方の違いは主に地域によるようだが、基本的には広義のペイガンにヒーゼンも含まれるようだ。ヒーゼンメタルというジャンルはほとんどペイガンメタルと同じものだと思ってよい。

■ ブラックメタルとペイガニズムの関係

 サタニズムとは悪魔崇拝を指しているのではなく、アンチゴッドであるサタンを象徴とした個人主義への回帰である。それには欧米人として当たり前である「神に仕える」という態度とは相反し、当然のごとくアンチキリストとなる。ブラックメタルの始祖とされるVenomはサタニズムについて本気で追求しておらず、あくまで過激な表現としての演出に過ぎなかったようである。

BATHORY hammerheart 一方でBathoryは本気で追求していた。そして1stアルバムでは直情的にキリスト教の欺瞞とサタニズムについて歌っている。しかしその後、アルバム毎に直接的な表現が少なくなる。3rdアルバムは音楽性で見ると後のノルウェイジャンブラックの雛形的傑作であるが、5曲目"Equimanthorn"を見てみると既にOdin(オーディン)という単語が出てきており、既にサタニズムからペイガニズムへの思考の推移が垣間見れるのである。恐らく当初持っていた個人主義にあたる哲学からキリスト教的思考の否定に入り、その後に自分の作品を通じて自分のルーツというものを考えながらサタニズムとは異なる思考体系であるペイガニズムへと移行としたと思われる。4th以降、更なる思考の変化は進み、5thアルバムでは勇壮かつ儚さなメロディをミドルテンポで紡ぐ音楽性も含めて完全にペイガンメタルへと変貌した。5thアルバムの2曲目"Valhalla"とは戦死者の魂(エインヘリャル)が集められているオーディンの館の名称である。すなわちBathoryのペイガニズムへの思考と音楽性のシフトにはズレがあるが、その後のペイガンブラックと呼ばれるものは音楽性も含めてBathoryの5thアルバムをルーツにしているように思われる。

enslaved1.jpg Enslavedはヴァイキングをテーマにした1stアルバムを1994年にリリース。この頃の彼らのサウンドはあくまでプリミティブブラックメタルの音楽性であり、Bathoryの3rd~4thあたりの作風に相当する。彼らは初期ヴァイキングメタルにカテゴライズされているが、音楽性としてはブラックメタルのカテゴリーにあった。この辺りにジャンルが思想と音楽性の両立で区分けされていく中で、その過渡期にあったことが伺えよう。現在ではヴァイキングメタルといえば勇壮かつ土着的メロディに大仰な展開を含めたものをイメージしがちであり、現在のカテゴリーとしてはこの頃のEnslavedは思考体系含めて現在で言うペイガンブラックに相当する。

 ペイガンメタルとカテゴライズされるものはネオペイガニズムをエッセンスとして取り入れて表現したものであるが、時に古来からの楽器などを利用したり民族音楽を取り入れた音楽性のみにおいてのペイガンメタルも存在する。それらはしばしばフォークメタルとも形容される。また、ペイガンブラックメタルはそれをブラックメタル的に表現しているものであるが、それにはしばしば民族優越性の論旨を挿入するバンドもいるためにNSBMとの境界が不鮮明な場合がある。基本的にそのようなバンドはNSBMに該当されることが多いと思われる。

graveland.jpg また、ペイガニズムとNSBMの境界を取り上げる上で外せないバンドはやはりGravelandであろう。一番有名な音源はデモ音源のIn the Glare of Burning Churchesだが、これはインナーサークルに呼応するように作成されたサタニックなテーマのプリミティブブラックメタルである。メンバーのRob Darkenはペイガニズムを重んじた思想の持ち主であるが、当時のメンバーであるKarcharothやCapricornusはサタニズムやNS思想を持っていたためこと、そしてRob Darken自身も自分たちのルーツであり血を重要視すると言う意味で一時期は極右思想にも寄り添ったようだが、現在では完全に一線引いている。彼がよく中世の甲冑を纏っているのも、ペイガニズム思想からくるものだ。彼はNSBMシーンについてかなり現実的な意見を寄せており、頷ける内容も多い(リンク先の記事はRobの核心をついた意見がみられるので、みたことがない人はぜひ見てほしい。というかこれを観れば本稿はほとんど見る価値がないかもしれない)。一方で、RACバンドとスプリットをリリースするなど極右思想との一定の関係は保っているようだ。

■ おわりに

 今回のコラムではペイガニズムの源流であるゲルマン人と北欧神話の関係から紹介し、ペイガニズムの定義について述べ、そこからブラックメタルとペイガニズムとの関係について展開した。ここから解ることはブラックメタルバンドにおけるペイガニズムへの志向は、個人主義とルーツへの回帰に大きな結びつきがあったからであり、また思想、音楽性ともにBathoryの影響が非常に大きかったことが解った。

 次回のコラムではNSBMの話題に戻し、抑えていくべき名盤などを触れていく。またペイガンブラックに関しても同様に紹介していくことにする。
タグ: column  Bathory  Enslaved  Graveland  NSBM 
その他  /  tb: 0  /  cm: 0  /  △top

The Night And The Fog : V/A (1999) 

16のNSBMバンドによる伝説のコンピレーションアルバムを紹介。
アメリカのDungeons Of Darknessがリリースしたが、このリリース年度にオーナーが自殺、
そのためこのアルバムは再販もなく希少価値が非常に高い。

n_f.jpg

現在では相当ネームバリューの高まったNSBMの面々が参加したコンピ。
アルバム名は「夜と霧」作戦からとっており、
まさしくNSBMを体現するかのような、この作品自体が「狼煙」のように感じる。

参加バンドの豪華さと収録曲のプリミティブさ、
そして何より作品全体から沸き立つ危険思想が
邪悪で真っ黒にアルバムを染め上げている。

自分はレイシズムを決して賛同する気はないが、
このコンピレーションアルバムはブラックメタル史上において
非常に重要なものであることはわかる。

このアルバムは非常に手に入りづらいが(私も借りました)
参加バンドによっては初期音源集に収録されている楽曲もあるので、
難しい場合はそちらからお求めになるのがいいだろう。
タグ: Kristallnacht  Bekhira  Thor's_Hammer  Thunderbolt  Fullmoon  Absurd  Graveland  Gontyna_Kry  個人的名盤  1996-2000 
Black  /  tb: 0  /  cm: 0  /  △top

Duch 300 Z Rany : Barbarous Pomerania (2009) 

ポーランドのペイガンブラックメタルバンド、Barbarous Pomeraniaの2ndアルバムを紹介。
ロシアのYar' Productionsからlmd.1000でリリースされた。

Barbarous_Pomerania2.jpg

Gontyna Kryのメンバーが在籍しているバンド。
同郷のGravelandフォロワーもフォロワーで、
当然かのように武装コスプレもやっちゃっている。

というわけで中期以降のGravelandに近い曲進行。
あまり展開の無い楽曲に寒々しいキーボードのメロディが絡む。
どことなく哀愁の感じる楽曲ばかりで勇壮なペイガニズムというより、
スラブ民族の栄枯盛衰をテーマにしているかのようだ。

まあこれはあまり面白いアルバムとは言い難いですね。
スラブ民族武装コスプレ好きの方におすすめ。

Encyclopaedia Metallum - Barbarous Pomerania
タグ: Barbarous_Pomerania  Graveland  Gontyna_Kry  Poland  2006-2010 
Black  /  tb: 0  /  cm: 0  /  △top