Blackjazz : Shining (2010) 

ノルウェーのエクスペリメンタルジャズ/ブラックメタルバンド、Shiningの9thアルバムを紹介。
ノルウェーのIndie Recordingsよりリリースされた。

BlackjazzBlackjazz
(2010/02/02)
Shining

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よくスウェーデンのShiningと間違えたっていうネタにされるバンド。
元々はピンクフロイド志向のプログレッシブなエクスペリメンタルジャズだったようだが、
Enslavedの影響を受けたということでブラックメタル寄りに。
そしてついにはEnslavedGrutle Kjellsonも本作品で参加(#8,9にて)

ブラックメタルとしてみればかなりアヴァンギャルド/インダストリアルという感じだが、
その根底にはフリーなジャズスタイルと、フリーなパンク精神が混じりあっていて、
演奏技術の巧みさもあって1曲1曲に緊張感が溢れだしている。

このブログを見てもらえたら解る通り、私はいわゆる"プログレ"に理解がほとんどない訳だが、
このアルバムに関して言えばすごく興味深く聞けたわけであり、
凡百なアルバムではないということだけは間違いない。

Encyclopaedia Metallum には掲載なし
タグ: Shining  Norway  Enslaved  2006-2010 
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【column】 NSBMとは一体何か? - IV 

■ 前回

【column】 NSBMとは一体何か? - III
http://staymetal.blog8.fc2.com/blog-entry-550.html

■ 続き

 前回は、NSBMはAbsurdのような異端にして自由な表現を用いていたバンドをパイオニアとしながらも、音楽性としてはAbsurdタイプの他にも、様々なものがあることを語った。今回はコラムの本筋からは少し外れるが、ペイガニズムについて触れることにする。NSBMの歌詞テーマにもなる北欧神話などのペイガン世界を理解し、NSがどう繋がっていくか理解することで、ペイガンブラックとNSBMの曖昧な境界線を少しでも明確にすることが目的である。
その他、ブラックメタルのバックグラウンドにも大きな関係があるのでご容赦の上、ご一読願いたい。

■ ゲルマン人と北欧神話

 現代の感覚では「ゲルマン人=ドイツ」という感覚だが、ゲルマン人とは北ドイツからスカンジナビア南部に至るまで広範に所在した諸部族のことを指す。そのため、実のところ北欧民族として「ゲルマン民族」というような民族共同体は存在しない。しかし「アーリアン学説」においてゲルマン人こそが優等性を保有するとし、アーリア人(高貴な者)と名付けられた。それを利用したナチスドイツによって人種政策として「ゲルマン民族」という概念が創出された。

odin.jpg 古代、ゲルマン人は各地方に点在していたが、やがて気候変動や他民族の圧迫などで移動し始め、他民族との同化などが行われていき、現在のヨーロッパ諸国の形成が行われていった。ドイツもその一つである。それを「ゲルマン人の大移動」という。一方で、大移動に参加せず北欧に残ったゲルマン人はノルマン人と呼ばれた。彼らは中世時代にはスカンジナビア半島にてヴァイキングと呼ばれるようになる。ヴァイキングとは海賊のことではなく、彼らが地勢的観点から航海術が巧みになったためにしばしば武装船団を形成しており、それが現在のイメージに繋がっている。つまりヴァイキングもルーツはゲルマン人ということになる。

 一方で、移動したゲルマン人は各地域の民族と同化し、やがてキリスト教化していくことになるのだが、その前に信仰の対象としていたのが「北欧神話」である。勿論、移動しなかったヴァイキングも北欧神話を信仰の対称にしていた。各地に散ったゲルマン人が「北欧神話」のうちオーディンを信仰の最も重き対象にしたのに対して、ノルマン人(後のヴァイキング)はトールを信仰の対象にしたのは面白い。この辺りに地勢的観点における神話への見る目の違いが現れている。

■ ペイガニズムとは

ペイガン(pagan)とはラテン語の「田舎の」を意味する単語を語源としている。キリスト教化は都会で浸透したため、保守的な田舎の人々には浸透せず、それはしばしば非信仰者としてペイガンと形容された。そのため、当初は侮蔑語として用いられる時代が長く続いたが、現在では(ネオ)ペイガニズムとしてキリスト教以前の自然宗教ないし自然を基盤に持つ精神世界を取り戻す運動の総称になった。これには当然、北欧神話も信仰の対象に含まれている。

Pagan_Symbols_Brushes_5_0_by_DeviantNep.jpg そのため、ナチズムなどに見られる民族優越性に前提としたナショナリズムとは、自分たちのルーツに誇りを持つという点で親和性を持ちつつも、レイシズム的思想は含まれていない。言わば、自分たちのルーツを多文化主義から守っていくという動きであり、他のルーツを持つ者に対する「優越性」を見出すようなものではないということである。

 また、ペイガニズムの類語として、ヒーゼニズムという言葉も存在する。ヒーゼン(heathen)とは「異教の」を意味する単語で、ペイガンとほぼ同じ使われ方をしてきた。これらの現在での使われ方の違いは主に地域によるようだが、基本的には広義のペイガンにヒーゼンも含まれるようだ。ヒーゼンメタルというジャンルはほとんどペイガンメタルと同じものだと思ってよい。

■ ブラックメタルとペイガニズムの関係

 サタニズムとは悪魔崇拝を指しているのではなく、アンチゴッドであるサタンを象徴とした個人主義への回帰である。それには欧米人として当たり前である「神に仕える」という態度とは相反し、当然のごとくアンチキリストとなる。ブラックメタルの始祖とされるVenomはサタニズムについて本気で追求しておらず、あくまで過激な表現としての演出に過ぎなかったようである。

BATHORY hammerheart 一方でBathoryは本気で追求していた。そして1stアルバムでは直情的にキリスト教の欺瞞とサタニズムについて歌っている。しかしその後、アルバム毎に直接的な表現が少なくなる。3rdアルバムは音楽性で見ると後のノルウェイジャンブラックの雛形的傑作であるが、5曲目"Equimanthorn"を見てみると既にOdin(オーディン)という単語が出てきており、既にサタニズムからペイガニズムへの思考の推移が垣間見れるのである。恐らく当初持っていた個人主義にあたる哲学からキリスト教的思考の否定に入り、その後に自分の作品を通じて自分のルーツというものを考えながらサタニズムとは異なる思考体系であるペイガニズムへと移行としたと思われる。4th以降、更なる思考の変化は進み、5thアルバムでは勇壮かつ儚さなメロディをミドルテンポで紡ぐ音楽性も含めて完全にペイガンメタルへと変貌した。5thアルバムの2曲目"Valhalla"とは戦死者の魂(エインヘリャル)が集められているオーディンの館の名称である。すなわちBathoryのペイガニズムへの思考と音楽性のシフトにはズレがあるが、その後のペイガンブラックと呼ばれるものは音楽性も含めてBathoryの5thアルバムをルーツにしているように思われる。

enslaved1.jpg Enslavedはヴァイキングをテーマにした1stアルバムを1994年にリリース。この頃の彼らのサウンドはあくまでプリミティブブラックメタルの音楽性であり、Bathoryの3rd~4thあたりの作風に相当する。彼らは初期ヴァイキングメタルにカテゴライズされているが、音楽性としてはブラックメタルのカテゴリーにあった。この辺りにジャンルが思想と音楽性の両立で区分けされていく中で、その過渡期にあったことが伺えよう。現在ではヴァイキングメタルといえば勇壮かつ土着的メロディに大仰な展開を含めたものをイメージしがちであり、現在のカテゴリーとしてはこの頃のEnslavedは思考体系含めて現在で言うペイガンブラックに相当する。

 ペイガンメタルとカテゴライズされるものはネオペイガニズムをエッセンスとして取り入れて表現したものであるが、時に古来からの楽器などを利用したり民族音楽を取り入れた音楽性のみにおいてのペイガンメタルも存在する。それらはしばしばフォークメタルとも形容される。また、ペイガンブラックメタルはそれをブラックメタル的に表現しているものであるが、それにはしばしば民族優越性の論旨を挿入するバンドもいるためにNSBMとの境界が不鮮明な場合がある。基本的にそのようなバンドはNSBMに該当されることが多いと思われる。

graveland.jpg また、ペイガニズムとNSBMの境界を取り上げる上で外せないバンドはやはりGravelandであろう。一番有名な音源はデモ音源のIn the Glare of Burning Churchesだが、これはインナーサークルに呼応するように作成されたサタニックなテーマのプリミティブブラックメタルである。メンバーのRob Darkenはペイガニズムを重んじた思想の持ち主であるが、当時のメンバーであるKarcharothやCapricornusはサタニズムやNS思想を持っていたためこと、そしてRob Darken自身も自分たちのルーツであり血を重要視すると言う意味で一時期は極右思想にも寄り添ったようだが、現在では完全に一線引いている。彼がよく中世の甲冑を纏っているのも、ペイガニズム思想からくるものだ。彼はNSBMシーンについてかなり現実的な意見を寄せており、頷ける内容も多い(リンク先の記事はRobの核心をついた意見がみられるので、みたことがない人はぜひ見てほしい。というかこれを観れば本稿はほとんど見る価値がないかもしれない)。一方で、RACバンドとスプリットをリリースするなど極右思想との一定の関係は保っているようだ。

■ おわりに

 今回のコラムではペイガニズムの源流であるゲルマン人と北欧神話の関係から紹介し、ペイガニズムの定義について述べ、そこからブラックメタルとペイガニズムとの関係について展開した。ここから解ることはブラックメタルバンドにおけるペイガニズムへの志向は、個人主義とルーツへの回帰に大きな結びつきがあったからであり、また思想、音楽性ともにBathoryの影響が非常に大きかったことが解った。

 次回のコラムではNSBMの話題に戻し、抑えていくべき名盤などを触れていく。またペイガンブラックに関しても同様に紹介していくことにする。
タグ: column  Bathory  Enslaved  Graveland  NSBM 
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Frost : Enslaved (1994) 

ノルウェーのヴァイキング/プログレブラックメタルバンド、Enslavedの2ndアルバムを紹介。

FrostFrost
(2009/01/13)
Enslaved

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Emperorとスプリット盤を出したりするなど確実にブラックメタルの領域にいた時代。
もちろん中期Bathoryのヴァイキングメタルの影響をもろに受けていたが、
それは同時に当時のノルウェイジャンブラックの潮流でもあったわけで、
このバンドもノルウェイジャンブラックの中の一バンド的扱いだったと思う。

しかしブックレットなどを見てみると、あくまでヴァイキングメタル的思想を持つバンド。
結局、ヴァイキングかブラックは思想次第なのだ。

このアルバムを最後にドラマーのTrimEmperorに移籍したが、
彼のジャズに影響を受けたプレイはこのアルバムにプログレ志向を持ちこんでおり、
以降、どんどんとプログレッシブな要素が高まっていった。
このアルバム自体はあくまでノルウェイジャンコールドブラックとしての価値が高い。

Encyclopaedia Metallum - Enslaved
タグ: Enslaved  Norway  Emperor  1996-2000 
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