ウォー・ベスチャル・ブラックメタルとは何か - I 

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■ はじめに

 拙著「ウォー・ベスチャル・ブラックメタル・ガイドブック」が世に出て1ヶ月以上たち、当初の予想を上回る反響をいただきました(購入できるショップ)。またその関連のイベントとして以下の現場で執筆者として立つという誉れにも恵まれました。


 拙著を購入いただきました方、上記イベントに遊びに来ていただいた・対談動画を閲覧いただきました皆様には改めて御礼申し上げます。しかし同時に、特にトークイベントと対談において、ウォー・ベスチャル・ブラックメタルについての概略を伝えようとしたものの、時間の問題で言葉足らずになってしまった節があり、結局のところ「ウォー・ベスチャル・ブラックメタルとは何なのか?」というシンプルな質問に対する詳細な回答ができていなかったという無念さが残ったのも事実です。

 そこで本稿から「ウォー・ベスチャル・ブラックメタルとは何か」と題して拙著の補足に当たるコラムを連載することにしました。あくまで「補足」の意味合いが高いですが、本をお持ちでない方にも読んでいただける内容にいたしますし、是非このコラムを通じて本を手に取っていただければ幸いです。それでは連載終了までお付き合いのほどよろしくお願いいたします。



■ 「ウォー・ベスチャル・ブラックメタル」というジャンルはあるのか?

 この名称そのものは拙著における便宜上のタイトルだと思ってください。しかし海外では1980年代から1990年代初頭にかけて生まれたエクストリームメタルとしてのスタイルとしてWar MetalBestial Black Metalという二つのジャンル名で2000年代以降カテゴライズされるようになりました。そして両者はその志向性に親和性があること、音楽的ルーツを共有していること、更に現代においては両者から共に影響を受けたバンドが多いことなどから、現在においてはWar Metal a.k.a. Bestial Black MetalやWar/Bestial Black Metalなどと称されて同一視されることが一般的になりつつあります。

 2000年に設立されたネット上でレーティングに特化した音楽DBサイトであるRate Your Music (RYM)にてメタルのサブジャンルの一つとして当該ジャンルを紹介されていることは上記の説明をフォローするものです。BBS機能によるディスカッションを主にしたRedditWar (Bestial) Black Metalというテーマが2012年には挙がっていたようで、海外のメタルに関するフォーラムなどを通じて00年代を通じてそのような同一視による名称が形成されていったことが想像できます。一方でそれらのジャンルの創始者にあたるSARCOFAGO、BLASPHEMYは80年代に結成されたバンドで、当時こそそのような名称は使用されていません。そのようにジャンル名というものは後年称されるものも多いです。特にこのジャンルはアンダーグラウンドなものだったのでなおさらだと思われます。

 ちなみに後述しますが、War/Bestial Black Metalはその音楽性からBlack/Death Metalとして扱われることもあります。しかし一方でBlack/Death Metalはブラックメタルバンドがデスメタル的な手法を多く取り入れたものを指すこともあり(ポーランドのBehemothなど)、区別することを好む人もいるようです。そんなときに使われるのはGoat Metal(Last.fm)だったりMetal of Death(Last.fm)などだったりしますが、そのように呼称が様々あるのは音楽的に細分化が進んだというより、ブラックメタルとデスメタルのいずれにおいても傍流と見られていた中で自分たちのアイデンティティを主張した現れであるように感じます。拙著における様々なバンドへのインタビューの回答を見ていただくとそのような主張が垣間見れる回答も多かったです。そのため細かい呼称をいちいち覚える必要もないですが、そのような呼称を理解しておくとこのジャンルでのバンド発掘がしやすくなることは補足しておきます。

 それでは次回は実際にベスチャル・ブラックメタルとウォー・メタルについて個別に説明していきます。次回もよろしくお願いいたします。

⇒ 「ウォー・ベスチャル・ブラックメタルとは何か - II
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Re: War Black Worship - vol. 3 

前回 → Re: War Black Worship - vol. 2

■ 十章: Nuclear War Now!

blasphemy_live.jpg Yosuke Konishi氏はアメリカはカリフォルニアにて自身のブラッケンドノイズバンド、ErebusのデモリリースとしてレーベルNuclear War Now!を設立する。1999年のことである。この時点では決して現在のようなレーベル活動を目論んでいたわけではなく、単純に自身のデモリリース起因だったようだが、やがて自身の音楽活動の限界と他者の作品リリースに考えが達し、2001年のバンクーバーにおけるBlasphemyのライブをMDプレイヤーで録音したものを、バンド側に掛け合ってライブ音源としてリリースすることになる。これが公式リリースとして初のNuclear War Now!のレーベル活動となった。

 この2001年という年は例えばOsmose Prod.もAngelcorpse、Blasphemy、Sadistik Exekution、Mystifierといったバンドのマテリアルの再発をリリースしており、ヨーロッパでも何らかの機運が高まっている時期であったし、Blasphemyが一時期的にでも再結成によるライブ活動を行ったこと自体、その何らかの機運とリンクしていることは間違いない。

Kult_Razor.jpg もしくは恐らくこのブログの閲覧者ならよくご存じであろう日本のDeathrash Armageddonもまた初リリースとして2002年にフィリピンのKorihorの作品をリリースしている。この音源ジャケットはあのGoat SemenのErick Neyraがデザインしたことで有名であり、いかに世界中でこのような同時期のムーブメントが勃発したかお分かりいただけるであろう。もしくは第八、九章でそれぞれ述べたように東南アジアと南米にそのようなつながりがあったこともまたトレンドと無関係だった地域の"同志関係"がうかがえるのだ。

 恐らくこれは北欧を起点とした2nd wave BMにおいてその勢いに陰りがみられたこと、もしくはよく言われるジャンルのポピュラー化、コマーシャル化による本質の衰退に対してアンダーグラウンドに引き戻そうというムーブメントが局所局所で勃発し、1st wave BMの流れを汲むバンドマテリアルの再評価が進んだのではないかと考えられる。その中で最も存在感があった、さらに言えばマテリアルのチョイスにアンダーグラウンドかつカルトなセンスがあったのがYosuke Konishi氏であり、Nuclear War Now!だったのである。Blasphemyが彼にライブ音源のリリースを許可したという事実自体が非常に興味深いものなのだ。もしくはDeathrash Armageddonもそうだが、極めてレーベルオーナーの個人的な趣味を動機としたリリースや再発がこのジャンルの再興を促したことはまさにこのジャンルの性質を表していると言える。

blasphemy1.jpg その後、Nuclear War Now!による重要な再発音源を以下に並べる。
  • VON - Satanic Blood Angel (2002)
  • Sarcofago - I.N.R.I. (2004)
  • Impurity - The Lamb's Fury (2006)
  • Reencarnacion - 888 Metal (2006)
  • Blasphemy - Fallen Angel of Doom (2007, 2015)
  • Conqueror - War.Cult.Supremacy (2011)

 特にRoss Bay Cult関連の再発は共同で行っており、Blasphemyのライブ音源リリースの後もアンダーグラウンドにおける交友関係は長く続いている。


■ 十一章: 志を受け継ぐ者たち

 Nuclear War Now!を中心とした過去音源のリリース群による再評価に呼応するがごとく、その志を受け継ぐかのように新しいバンドが出現する。それらをサポートした重要なレーベルはもちろんNuclear War Now!Deathrash ArmageddonOsmose Productionsの他に、ドイツのIron Bonehead ProductionsDunkelheit Produktionen、アイルランドのInvictus Productions、アメリカのHell Headbangers RecordsOld Cemetery RecordsDark Descent RecordsSatanic Skinhead Propagandaが候補として挙げられるだろう。

 そしてそれらrのレーベルがリリースに関与した"志を引き継いだバンドは以下の通りである
 
sadomator.jpg
    ヨーロッパ
  • Sadomator (ex-Sadogoat) (1998-)
  • Embrace of Thorns (1999-)
  • Anal Blasphemy (2002-)
  • Blasphemophagher (2002-2012)
  • Bestial Raids (2003-)
  • Proclamation (2003-2012?)
  • Teitanblood (2003-)
  • Pseudogod (2004-)
  • Wargoat (2006-)
  • Demonomancy (2008-)
  • Goatblood (2011-)
  • Witchcraft (2013-)

black witchry
    北米
  • Ouroboros (1997-2010)
  • Axis Of Advance (1998-2007)
  • Black Witchery (1999-)
  • Revenge (2000-)
  • Nyogthaeblisz (2002-)
  • Martyrvore (2002-)
  • Necroholocaust (2003-)
  • Amputator (2005-)
  • Nuclearhammer (2005-)
  • Antediluvian (2006-)
  • Nocturnal Blood (2008-)
  • Weregoat (2009-)
  • Abysmal Lord (2013-)

witchrist.jpg
    南米
  • Seges Findere (1999-)
  • Goat Semen (2000-)
  • Nihil Domination (2003-2013?)
  • Hades Archer (2005-)
  • Wrathprayer (2006-)
  • Bloody Vengeance (2009-)

    オセアニア
  • Diocletian (2004-2015)
  • Witchrist (2006-)
  • Heresiarch (2008-)
 
Genocide_Shrines.jpg
    アジア
  • Nechbeyth (2001-)
  • Zygoatsis (2003-)
  • Damaar (2004-2006)
  • Infernal Execrator (2005-)
  • Battlestorm (2007-)
  • Nocturnal Damnation (2010-)
  • Genocide Shrines (2011-)
  • Blasphmachine (2012-)


 これらのバンドを並べたのは一つは各地域から新しいバンドが出てきているということ、そして特に前述した2002年前後に多く結成されていることだ。この事実は過去のマテリアルの再発が促したシーンの活性化を表していると言えよう。なお、上記バンドリストは特定レーベルが関わったバンドという限定に基づいており、このジャンルの重要なバンドを全て網羅的に示しているものではない。しかしかなりの有名なバンドを網羅していることは確かである。

 また更に00年代後半から現在まで、アクティブなバンドを俯瞰的に見てみると、実はvol.1で触れた各バンドの要素が混在化されていったようなスタイルのバンドが増えていることがわかる。決してトレンドに振り回されず、自己のスタイルに進化ではなく深化していった結果としての、近いベクトルを持つ各スタイルの共鳴が図られているのである。例えばニュージーランドのDiocletianでいえば、オセアニアブラックメタルとしてのBestial Warlustのスタイルをベースとしつつ、Incantationスタイルを合わせたものになっているし、フィリピン(現在はコスタリカ)のDeiphagoはBlasphemyのスタイルをベースとしながら、さらに南米ベスチャルスタイルを融合というより掛け合わせたような感じでとにかくダーティーで破壊的なスタイルを確立している。

■ 十ニ章: 最後に

 最も1st wave BMの直系だといえるスタイルでありながら、シーンのオーバーグラウンド化を嫌って地下に潜った結果、ブラックメタルのサブジャンルとして認識されてしまったWar/Bestial Black Metalであったが、その後、再評価が進むような各"個人"の動きがそのアンダーグラウンド性を保ちながら世界中に広まり、重要な過去音源の再発のみにとどまらず、新たなバンドの始動や、もしくはArchgoatやBeheritのような重要バンドの再結成に至った。

 War (Black) MetalのパイオニアであるBlasphemyは、その重要な過去音源の再発という起爆材においてもやはりNWN!の行動と共に共鳴しており、過去から現在に至るまでこのジャンルにおいて最も重要なバンドであるということは言うまでもない。

 最後にそのBlasphemyの発言から引用してこのコラムを閉める。


 ―Would you say Blasphemy is Black Metal, Black/Death or something else?
 Blasphemy: Only Black Metal.
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Re: War Black Worship - vol. 2 

前回 → Re: War Black Worship - vol. 1

■ 六章:2nd-Wave Black Metalの興り

darkthrone2nd.jpg 前回、ヨーロッパにおいてデスメタルの範疇にもありながら、脱デスメタルを志向して形成され、ブラックメタルというジャンルが明確化されていったことを説明したが、当時デスメタルバンドとして活動していたDarkthroneが突然、コープスペイントを身にまといメンバーの名前も改名して1992年にリリースした2ndアルバム”A Blaze in the Northern Sky”は強烈だった。もちろんベースとなる音楽はBathoryのものだったが、その音楽性を更にアルバムジャケットのように漆黒に塗りつぶしたサウンド、そして意図的なロウサウンドプロダクション、そして翌年以降のライブ活動停止(神秘性)と、その後のブラックメタルの路線を大きく決定づけるスタイルをシーンに叩きつけた。これは1stアルバムをリリースした1991年にEuronymousと出会い、かのインナーサークルに加入したことが影響している。これが2nd-Wave Black Metalの興りである。 

 さらにこのインナーサークルを取り巻いたスキャンダルな事件の数々が、このジャンルの異様性を高めていった。この辺りは様々なメディアが取り上げていて作品にもなっている事なので割愛するが、BeheritのNuclear Holocausto Vengeance氏は当時、こう述べている―「(様々なノルウェーの事件について)俺は理解できないけど。そんなのノルウェーで起きているだけだからね」

 この状況はさらにノルウェーとフィンランドの「Dark War」と呼ばれる抗争に発展した。この状況以前のブラックメタルは非常に小さいシーンの中で、どのバンドも共通の志向性を持っている”塊”だったというが、音楽表現ではない過激な”表現”がシーンを変えてしまった。1993年あたりに起きたと言われるブラックメタルのオーバーグラウンド化である。Archgoatは「1993年から1994年にかけて、ブラックメタル自体がコマーシャリズムに侵されてアンダーグラウンドからオーバーグラウンド化していくのを目の当たりにしていた。我々はそんな間口が広くて誰でも出入りが可能なブラックメタルシーンにうんざりしたのさ」と述べている。実際、ブラックメタルとして知名度の高いMayhemの1st、Emperorの1stは1994年にリリースされており、オーバーグラウンド化の中で知名度を高めたアルバムだと言えよう(もちろん2nd-Wave Black Metalの代表的な音源でもある)。

 そしてBeherit、Archgoatは活動を停止したわけであるが、同様の理由で他の地域でもWar/Bestial Black Metalは撤退していくことになる。もちろんあのバンドもだ。


■ 七章:メインストリームからの撤退と雌伏

fuck_christ_tour.jpg ここで話をWar Black Metalの権化、Blasphemyに戻そう。1989年の1stデモ以降、1990年に1stアルバム” Fallen Angel of Doom....”、1993年に2ndアルバム” Gods of War”をリリースし、さらに同年、"Fuck Christ Tour"と題してImmortal、Rotting Christを従えたヨーロッパツアーを回った後、そのまま解散してしまった。つまり、それもまた1993年のことである。

 この解散劇についてはまず1991年に加入したベースプレイヤーのAce Gustapoのもたらした問題がある。彼のことは後にオリジナルメンバーが「ポーザーだった」と糾弾しているが、そのためもあってか2ndアルバムの出来についても不満があったようである。もう一つの要因はブラックメタル事態の取り巻く環境の変化であろう。2008年のインタビューで後にWar Metalとして呼ばれるようになったことについてこう答えている。「そういうラベルを貼られたのは随分後の話で、当時はBlasphemyはシンプルにブラックメタルバンドだったのさ。雪だの木だのをテーマに歌いだしたヒッピーでグラムメタルバンドがブラックメタルを自称し始めるまではな」と。

conquror.jpg なお、この頃のBlasphemy人脈筋としてはAntichrist(1990年結成)、Domini Inferi(1992年結成)、Conqueror(1994年結成)がRoss Bay Cult界隈として有名だが、Antichristはこの当時、音源を残していない。正確に言えば後にリリースされることになる1stアルバム” Sacrament of Blood”のレコーディングを1994年に済ませていたが、この時点では封印されていた。Domini InferiとConquerorは共に後のRoss Bay CultのオーナーになったRyan Förster氏のバンドで、特に後者はBlasphemyの血を絶やさないためであるかのようにアンダーグラウンドで活動していたが2本のデモを残して活動を停止している。1999年にEvil Omen Recordsよりリリースされた1stアルバム” War Cult Supremacy”の時点では既に解散していたようである。この作品はBlasphemyと比べるとよりハードコア路線を追求したようなサウンドで、RevengeとBlasphemyの丁度中間のような作品になっている。また後にヒスパニック系Blasphemyと呼ばれるようになるアメリカのMorbosidadもこの時点では2本のデモを出したのみで活動を停止している。

 またヨーロッパにおいては、Blasphemyとの関係性も指摘されたノイズグラインドコアのBloodのメンバーであったDominus A.S.氏によるNaked Whipper(1993年結成)がBlasphemyやBeheritとはまた異なったタイプの自称”Sado Grind Metal”という音楽性で、かなりグラインドコア寄りのブラックメタルをプレイしており、1stアルバム” Painstreaks”は後に大きく評価されることになったアルバムである。

bestial_Warlust.jpg 一方、五章で取り上げたオーストラリアのCorpse Molestationは1993年にBestial Warlustと改名、バンドスタイルもBlasphemyの影響を受けたスタイルへと推移しながら、さらに恐らくSarcófagoの影響も受けたWar/Bestial Black Metalに仕上がっている。彼らが残した音源を聞くと感触としてはとにかく「突撃!」というバーバリアンな印象が強烈に残るのは、そのような影響からきているのではなかろうか。結果としてBestial Warlustはオセアニアブラックメタルの礎となった。だが、この時の世界の潮流は既にこのスタイルではなく、彼らも世界的成功を収めることなく1997年に解散してしまった。メンバーはその後、Gospel of the Horns、Deströyer 666、Abominatorで活動しているが、前者2バンドはどちらかというとBlack/Thrash的な志向で、War/Bestial Black Metalではなく、路線的にはAbominator (1994年結成)がBlack/Deathスタイルとして継承している。このバンドは地道に活動を継続させて、War Black Metalの暗黒時代であった90年代後半を生き抜いたバンドである。もしくはオーストラリアにはDarklord(1991年結成)というBlack/Deathスタイルのバンドも知る人ぞ知る形で存在していたが、彼らもまた評価されるのは後年のことである。

 このような形でBlasphemyの原産地であるカナダ、もしくはSadistik Exekutionが撒いた種がBestial Warlustとして発芽したオセアニア、さらに言えば2nd Wave Black Metalの発信地であるヨーロッパではWar/Bestial Black Metalは90年代、雌伏の時を迎えていた。


■ 八章:トレンドに”鈍感”だった地域―南米編

Mystifier.jpg その頃、Sarcófagoの産地であった南米ではどうなっていたかというと、まず前述したとおりフォロワーバンドとしてブラジルからMystifierやImpurityが出てきている。特にMystifierはBlasphemyとの交流もあったというドイツのPoisonのカバーを行っていたり、Bestial Black Metalとしての軸はあれどもBlasphemyにもどこか感覚的に近いようなサウンドで、特に1stアルバム”Wicca”と2ndアルバム” Göetia”は共にこのジャンルにとって必携の作品であろう。またImpurityも1stアルバムを1993年にリリースしてからもコンスタントに活動を続け、この二バンドは前述した90年代後半を乗り切っている。

 またブラジルといえば1988年にデスメタルバンドとして結成したSuppurated Fetusが1991年に改名したGoat Penisも挙げておくべきだろう。Suppurated Fetus時代から1stデモまでは後の彼らのみ知っている人には意外なくらいスカムなグラインドブラックメタルをやっていた。その後、2ndデモはSarcófagoの影響を感じさせるスタイルに変わり、3rdデモではBlasphemyの要素も入ってきたWar Black Metalに変化していった。バンド自体は90年代後半は活動を停止しており、復帰後はそのようなWar Black Metalをソリッドなプロダクションにしたスタイルに変更している。

hadez_demo.jpg 一方でブラジルからさらに”奥地”に目を向けると、ペルーにおいては1986年に結成されたHadezがいる。今となっては南米カルトブラックの重鎮として広く名前を知られるようになったが、恐らく当時は超アングラゾーンとしてローカルエリアでしか知られていない存在だったに違いない。実際、ペルーで初めてメタルバンドとしてCDをリリースしたのがこのHadezだったという話もある。しかしそれだけに南米カルトブラックを醸造する最適の空間で影響力を持っていたと言えよう。彼らに影響を受けたMortuorioなども後に再発によって知られるようになったバンドである。コロンビアではBlasfemia (1986年結成) やらMasacre (1988年結成)やらアクの強いというか崩壊系南米Black/Deathが生まれている。このようにペルーやらコロンビアといった地域では個性的なバンドが多数出てきていたのも地域性と無関係ではあるまい。ちなみにInquisition(1988年結成)もこの頃はまだやや崩壊寄りの南米ブラックメタルをプレイしていた。まさか近年の彼らの完成度の高いブラックメタルからは想像できないが、既に当時世界で認められるために英語歌詞でいくと宣言していたのも今となっては平伏せざるを得ない。

 またチリでは1986年に結成されたDeath Yellがいるが、特に有名なのは1991年にかのTurbo MusicからリリースされたBeheritとのスプリットだろう。この頃の南米と北欧とのリンクも面白い。チリにはかのPentagramもいたし、比較的ヨーロッパからの注目を集めやすい土地柄だったのかもしれない。


■ 九章:トレンドに”鈍感”だった地域―東南アジア編

sexfago.jpg 二章で言及したとおり東南アジアにおいても南米のBestial Black Metalの流儀に沿ったバンドが出てきていた。そこで紹介したAbhorerのメンバーが1988年に結成したSexfagoはアジアンブラックメタルの重鎮、Impietyの前身バンドである。バンド名の通り、完全にSarcófagoのフォロワーとして初期はコピーバンド状態であったが、1990年にImpietyと改名してオリジナルを作り出した。このコラムの内容としては初期音源のみ該当し、その後様々な影響もうけながらアジアンブラックメタルの重鎮に上り詰めている。シンガポールはこの頃は他にNecro Sadist、Istidrajなども出てきている。

 また1989年にはフィリピンにてDeiphagoが結成された。2004年に中米に活動の場を移した彼らであるが、それまではフィリピンにて3枚のデモ作品を生み出している。1996年にはタイにてSurrender of Divinityが結成されており、後にImpietyともスプリットをリリースしている。当時、BeheritのNuclear Holocausto Vengeance氏はマレーシアやシンガポールなどの人と音源トレードを行っていたらしく、さらにタイに移住をしていた時期にこんなことを思っていたという。

「私は東南アジアに永い間滞在している。そこでは若い人々が音楽的理解を求めてMTVに見られるようなメジャーバンドに陥りがちだが、それでもパンクシーンで確立されているようなトゥルーなアンダーグラウンド本能が見られる。ブラックメタルシーンは非常に小さいのだが、Surrender Of Divinityのようなバンドもいるんだ。彼らは非常にクールだ。そこにアンチクリスチャンムーブメントなんて要らないんだよ、ハハハ!」

 この頃の東南アジアは完全に未開の地としての小さなシーンであったが、いわば”小さな南米”としてアンダーグラウンドシーンを形成していたとも言えよう。


■ まとめ

 2nd-Wave Black Metalの興りはブラックメタルというジャンル自体の性質をも変え、ブラックメタルという音楽自体が次第にオーバーグラウンド化する過程で、Blasphemy、Beherit、Archgoatなど様々な後のレジェンドバンドたちが活動を停止していった。特にそのような様相が顕著になったのは1993年以降である。そのようにして北米やヨーロッパではWar/Bestial Black Metalスタイルはメインストリームからの撤退と雌伏を余儀なくされた。もしくはオセアニアにおいても時間差はあれど同様のことが起きた。

 一方で南米や東南アジアではその地域性、物理的距離なども含めてそのようなムーブメントの変化には比較的鈍感であったためか、もしくはインターネットの普及前であったことなども作用して、1st Wave Black Metalスタイルを基盤とするBestial Black Metalが根強く残り、もしくはそれを起点としてさらにアンダーグラウンドにおいてシーンを形成し、世界的には陽の目を見ない状態で独自進化を遂げていった。

 次回以降はインターネットの普及、そしてもう一つはNuclear War Now! Productionの設立とその動機について言及し、当時のWar/Bestial Black Metalがどのように再評価されていったかを探る。もしくはその再評価による影響によって新たなバンドも多数出現し、世界的に一つのジャンルとしてWar/Bestial Black Metalが盛り上がっていった様についても紹介する。そして最後にWar/Bestial War Black Metalの必携盤を紹介し、現在でも活躍するバンドなども紹介して当コラムを閉める予定である。

次回 → Re: War Black Worship - vol. 3
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Goat Worship - III 

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■ 様々なGoat Metalの形 - バンド名編 その2

 前回はGoatlord、GoatPenis Goat SemenといずれもGoat界隈においては王道バンドを紹介したが、引き続きバンド名にGoatを冠するバンドを紹介していこう。

 オランダのFuneral Goatはex-Sauronのメンバーによって構成されていて、音楽性はArchgoatに近いロウブラックメタルだが、曲調を落とすとHellhammerっぽさも出てくるのが特徴。歌詞を見てみるとほとんどが単語の羅列でしかなく、ひたすら天に唾棄するだけの音楽だ。"Goat Metal"好きには残念なことに昨年改名してIbex Angel Orderとなった。オカルティズムにフィーチャーしたブラックメタルらしく、新作も完成しつつあるようだ。

 ブラジルのMighty Goat Obscenityは白塗りならぬ赤塗りのペイントを施していることが特徴のバンド。サウンド自体にオリジナリティは全くないが粗暴で南米らしい演奏と北欧ブラックの合わせ技のようなスタイル。とりあえず見た目ありきでかっこいい。

funeralgoat1.jpg goat8.jpg


 チリのGoatoimputiryは完全に初期BeheritフォロワーなサウンドでGoat WorshipというよりかはBeherit Worshipという感じである。ボーカルスタイルなど含めてトレースに近いのだが、それも含めて楽しく聞ける。昨年、新EPを出したがカセットテープでチリの地元アングラレーベルからリリースされており、さすがに手が出なかった。

 カナダのGoatwarは正直、相当にヒドいブラックメタルで、様々なプリミティブブラックの死線を潜り抜けてきた人でも「こいつはヒドイ!」と唸らせるパワーを持った強力なバンドで、活動も完全オブスキュアなバンドである。1996年に結成して二枚フルレングスを出しているが、いつの間にか解散していた。しかし昨年、オーストラリアのTotenwerkというレーベルから突然"Untitled"と題したテープがlim.23 (!?)でリリースされたが新作なのか至って謎である…。

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 他にデンマークのSadogoat、ロシアのBlack Goatあたりは比較的この界隈では有名なバンドだが、私が聞いていないため今回は取り上げていない。

goat11.jpg 未聴といえば最近出てきたGoatバンドで注目しているのはGöät Dëströyër 666というオーストラリアのバンドだ。何しろバンドメンバーの名前が、Goatzilla、Ghoatst、Goatlord、Goatkuというステージネームらしい(笑)。昨年結成の新しいバンドで、今までに二枚のデモをデジタルのみでリリースしてるが、なかなか良いGoat Soundを持っているし、何しろBandcampでNYPなので気になる人は一枚フリーでDLしてみてはいかがだろうか。もし気に入ったら二枚目はお金を落としてあげてほしい。

 なお、Goatといえば有名なGoatmoonGoatwhoreなどもいるが今回はあえて割愛させてもらった。


■ 様々なGoat Metalの形 - アルバムタイトル編

 アルバムタイトルで最もこのテーマにあっているのはNunslaughterの2ndアルバム"Goat"だ。ブラックメタルにも親和性の高いサタニックデスメタルをプレイしている非常にストレートなタイトルで、1987年以来とてつもない量の音源を出している中でもGoat Metalを嗜好する人ならぜひ手に入れておきたい。また1stアルバム"Hell's Unholy Fire"のジャケットも一家に一枚と言っておこう。

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 Goat界隈に多大なる影響を与えてリスペクトを受けているのは先のArchgoatBeherit、そしてもう一つがフィンランドブラックのレジェンドであるImpaled Nazareneだ。初期作品に"Goat Perversion"と"Sadogoat"というEP盤をリリースしており、後に同名バンドが出てくるに至った。また1st、2ndアルバムにもたくさんのGoat関係の曲名、歌詞が残っている。基本的にImpaled Nazareneは非常に下品な表現をわざと使っていることが多く徹底的に冒涜の限りを尽くそうとしている関係で"Sado-Goat"という単語を用いていたようだ。

 さて毛色を変えて次はアメリカのGrand Belial's Keyのデモ"Goat of a Thousand Young"だ。音楽性は今まで紹介したGoat Metalとはかなり異なり、Mercyful Fateの影響を大いに受けつつ独自に完成させたサウンドである。このデモの収録曲もかなりユニーク。その後の1stアルバムに比べてサウンドのヘロヘロ感があるのも初期デモらしく面白い。

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 近年出たアルバムの中でGoat MetalらしいアルバムといえばNecroholocaustの"Holocaustic Goat Metal"やNihil Dominationの"Sado Perverser Goat Insulter"あたりだろうか。両バンドとも歌詞テーマにGoat Worshipを掲げており、最近のGoat Metalシーンの中では最重要バンドと言って過言ではないだろう。

 Necroholocaustはカナダらしい突進力のあるブラッケンデス/ウォーブラック。最新作をLPとデジタルでリリースしておりCDリリースがないのが残念だが、このアルバムではデンマークのSadogoatの曲をカバーしているなどニヤリとすること請け合いの作品。

 Nihil Dominationはエクアドル産のかなりグラインド色の強いブラッケンデスメタルで、日本のDeathrash Armageddonから国内盤がリリースされているのでご存知の方も多かろう。しかし今回のコラムを書くうえで最近の動向を再確認したらいつの間にか解散していた…。2013年にGoatbaphometという、これまた我々をくすぐるバンドとスプリットをリリースしたのが最後であった。ちなみにGoatbaphomet自体はNihil Dominationのサイドプロジェクトで印象としてはもう少しウォーブラック色が強くなった感じである。いずれにしても彼らの活動の再開を切に願う。

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■ 終わりに

 今回は前回に引き続きバンド名やアルバムタイトルなどで"Goat"を使っているものについて紹介してみた。有名なものから比較的マイナーなものまで取り上げてみた。何かしら琴線に引っかかるものがあればぜひチェックしてみてほしい。

 次回は今回紹介したもの以外で曲のテーマにGoatを採用しているバンドなどを紹介して、では"Goat Metal"とは何か、まとめることで本稿の終わりとしたい。遅筆ですがよろしくお願いします。

Next → Goat Worship - IV

コラムを締める前にGoat Worship特集と題して単独で音源を取り上げる記事を複数本あげます。
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Goat Worship - II 

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■ 90年代におけるChris Moyenの影響

 前回はなぜ山羊が悪魔的象徴とされるようになったかについて記載したのち、VenomBathoryのジャケットアートワークにも山羊が登場しているところまで話した。今回は恐らくこのブログに来るような酔狂な方なら1枚は手元にあると思われるChris Moyenのアートワークについてまず言及する。

 Chris Moyenは90年代初頭より主にデス/ブラックメタルバンドのアートワークを作成しており、テーマはすべてサタニズムである。そのため当然のごとくバフォメットが描かれたアートワークが散見される。1991年のBeheritDeath Yellのスプリット、Incantationの1st EPやGoatlordの1stフル、1993年のArchgoatの1st EP、1995年のImpricationのコンピレーションあたりはバフォメットの描かれた彼の初期作では有名なものであろう。またいずれも現在でも語り継がれている作品ばかりであり、これらは全て"Goat Metal"を印象付ける重要なものになっている。

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 個人的にもこれらの作品やバンドが自分の「Goatジャケ買い」の要因になったのは間違いないし、またいずれもノルウェイジャンブラックメタルとは本質的にモノが異なる1st-wave Black Metalから派生した作品群であることも特筆すべきことであろう。すなわちブラックメタルとデスメタルの境界が曖昧な時代の産物であるということだ。Imprecationのコンピこそ既にノルウェイジャンブラックメタルが覇権を握っていた時期だが、Imprecation自体、Incantationのフォロワーであったことから、いわゆるデスメタルの範疇の中にある地獄系デスメタルであった。

 現在のChris Moyenの作品にもバフォメット/ゴートは多用されており、変わらず"Goat Metal"のイメージ作りに大きな影響を与えている。


■ 様々なGoat Metalの形 - バンド名編 その1

 Chris Moyenによる"Goat Metal"の視覚的に植えつけだけでなく、様々な"Goat"要素の取り込みがある。まずはバンド名について見ていこう。

goatlorddemo.jpg まずは既に名前の出ているArchgoat、Goatlordはレジェンド的な存在であるが、前者は既にコラムで取り扱ったので後者について簡単に触れておくと1985年にアメリカで結成されたバンドで、いわゆるのちのブラックメタルとは全くルーツの異なる性質を持つバンドであり、スラッシュメタルの要素をあまり感じないドゥーミーで邪悪なデスメタルである。音としては現在のウォーブラックメタルとも類似点をいくつか感じる。なお、かのDarkthroneも1996年にGoatlordというタイトルのアルバムをリリースしているが、直接の関係はない。

 1987年にリリースされたデモ"Sodomize the Goat"はタイトルも相当ヒドいが、ごらんのとおり、とんでもなくスカムで冒涜的なジャケットになっている。これは本当にヒドい。あまりにもひどくて近年、再発されたりしている。もちろんテープで。

goatpenisdemo.jpg またブラジルのGoatPenisも前身バンドから考えると1988年に結成された"Goat Metal"のレジェンドであるが、彼らの1stデモ"htaeD no tabbaS"のジャケットもまた最高にスカムである。握るな、おい。またタイトルも逆さ文字を使っていたり。

 さすがに自分もこのカセットテープは持っていないが後に出たコンピ盤で聞くことができるのだけど、このころの彼らのサウンドは非常にオンボロかつ怪しげなデス/ブラックメタルであり、現在の軍事オタク系ソリッドウォーブラックメタルをやっている彼らのサウンドは全く想像できない。

 またBeheritのメンバーの別プロジェクト、Goatvulvaもこのころにある意味大暴れしていて、彼らのグラインドナイズなブラックメタルにさらにポルノノイズなどを混ぜた完全自由型スカムサウンドをやっていた。3thデモが"Baphometal"というタイトルで、これぞまさにという感じである。Beheritほどではないがアンダーグラウンドのごく一部では非常に支持の厚いバンドで、様々なバンドが影響を受けて曲名からバンド名を拝借したりしている。また近年ごく一部で話題になったデンマークのGoatfagoもまたGoatvulvaの直系チルドレンであり、こちらもまた脳みそをかき回すブラッケンドノイズをやっている。

goatsemen.jpg スカムといえばやはりこのバンド、ペルーのGoat Semen。セルフタイトルを銘打った2ndデモは写真に示す通り、これまたヒドい。しかしこのバンド、大好きである。

 実際、このコラムの着想を得たのはこのバンドの新譜が本日リリースになったからであり、我慢できずにBandcampでpre-prderしてしまったのだが、まだDLできないのでウズウズしているのである…というと話が反れたが、バンドの結成は2000年なのだが、新譜はなんと1stフルアルバムなのである。15年もの歳月だ。このバンドとの個人的な出会いは同郷のAnal Vomitとのスプリットで、度胆を抜かれるくらいカッコよかったのだが、そこからフルアルバムを待つこと10年だったわけで、非常にうれしいリリースなわけだ。というわけで皆さんもぜひチェックしてほしい。

 このバンドは当初から今に至るまでベスチャルなブラック/デスで貫き通していて、ウォーブラックともかなり近いというかほぼウォーブラックといってもよいようなサウンドを出している。フルアルバムを出していないのにライブ盤を出したりしているところも面白い。


■ 終わりに

 今回は"Goat Metal"のイメージをジャケットから植えつけたChris Moyenについて言及し、ジャケットと想起されるサウンドを一致させた功績について述べた。そのようにイメージづけられた"Goat Metal"について、まずはバンド名から主張しているバンドを列挙して紹介した。

 次回はその続きとして有名どころからちょっとマイナーどころまで様々に紹介していくとともに、他にバンド名以外についても歌詞テーマに採用しているバンドや、もしくはレーベルなんかも紹介していきたいと考えている。

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Goat Worship - I 

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Goat Worship!!



■ はじめに

be451280.jpg 今回のコラムはメタル(特にブラック)におけるバンド名、タイトル、もしくはジャケットによく用いられている "Goat" にフィーチャーしたものである。個人的には「Goatのつくバンドにハズレなし!」をモットーに、様々なアルバムのジャケ買いをしてきた。はっきり言って失敗したこともあったが、それも含めて楽しんできたし、今までの経験を振り返るとやはり "Goat black metal" というカテゴリーは存在し、"Goat Worship"という旗のもとに、何らかの共通点を持ったサウンドを備えているバンドが多い印象である。

 一方で「悪魔の象徴=山羊」は恐らくメタルを聞く人なら共通認識だと思うが、ではなぜそのようなモチーフとして用いられてきたのか曖昧なところもある人も多いと思う。そのため今回は"Goat"がなぜ悪魔的モチーフに用いられているのか、そしてそのようなモチーフを積極的に取り入れたバンドについて紹介していきたいと思う。


■ 山羊の歴史と古代神話

 山羊は家畜の歴史では犬に次ぐ。というのも耐環境性に非常に優れているからであり、また肉、乳、毛などすべて利用価値がある。その結果として山岳部や乾燥地帯などの厳しい自然環境下では特に貴重な家畜として用いられてきたし、紀元前のような"大昔"の時代においては特にその価値は高かったと思われる。逆に言えば歴史とともに遊牧から農耕に主軸が置かれるとともに、家畜としての価値は牛や馬などにスライドしていったのだが。

 一方で神話―特にギリシア神話もまたそのような紀元前に口承形式にて伝え広まったとされる。文章において体系的にまとめられるまでは民間伝承であり、そこには自然への畏怖、自然哲学の擬人化などが含まれていた。そのため自然の象徴の一つでもあった動物もモチーフにしたのも当然といえるし、さらに動物と人間が混在した半獣というイメージは超自然的なアニミズム信仰であったし、その中で動物の毛皮を着用しての儀式などもシャーマン信仰として存在していたようである。

goat1.jpg そこで生まれたのがパーンという神である(写真右)。羊飼いと羊の群れを監視する半獣の姿をした神だ。神話上においても起源は諸説あるが、いずれにしても山羊による農耕の象徴として民間で崇められてきたアニミズム信仰の具現化が大元だと思われる。さらに言えば山羊はしばしば性的なモチーフとしても用いられてきた。日本にも一部、古くからの文化として男性器を崇める神社があるなど、農耕文化と性的モチーフは切っても切れない関係にあるのは知っての通りだが、山羊にもそのようなイメージが古来からあったとされる。実際、後にキリスト教によってこのような民間伝承によるペイガニズムの迫害はそのような性的イメージを利用して悪魔的な印象を深めている。

 一方でエジプト神話におけるアメン神は牡羊の姿をしており、民間伝承をベースとして同じような創造要因だったと考えることができるし、さらに言えば後々の古代神の悪魔化においてアモンという名の語源になったことも付け加えておく。


■ 異教徒(ペイガン)の迫害と古代神の悪魔化

 紀元後、つまりイエス・キリストが生誕した後のことだが、彼はユダヤ教の中に新たな宗派を作るに至り、当時ローマ帝国においては多神教国家であったため当時、新興宗教としての宗教家であったイエス・キリストは迫害され、十字架に磔にされたわけである。その後、彼の弟子を中心に宗教活動は継続していくものの、ユダヤ教との決定的な理念の違いが弾圧を生み、やがてキリスト教として分離していくようになった。

 その後もキリスト教はローマ帝国からの迫害・弾圧を受け続けてきたが、それでも教義は広がり続けたことでついにローマ帝国より国教として認定され、さらにその約10年後には何と古代神などの多神教の崇拝が禁止をされるに至ったのである。というのも、どうやらこのころ、ローマ帝国は国内の求心力を失いつつあり、キリスト教勢力の影響を利用することが目的だったようだ。

 そのようにしてキリスト教は権力化していき、やがて他文化をキリスト教化していくに至った。それは「消去」というより「上書き保存」という方が適切な表現であっただろう。古代神信仰が盛んだった地域において教会を設立するときは、その古代神信仰の建造物を利用したという。たとえばエジプト神話のイシス像をそのまま聖母マリア像として流用したなんていうこともあったようだ。

 ここは想像だが、キリスト教にとって有用なイメージは有用に利用し、そうでないものは異教のシンボルとして弾圧の道具とするようになっていったのではなかろうか。つまりパン神のような半獣の様相は異教のシンボルとして利用しやすかった、そして文化の発展によって山羊という家畜の価値が相対的に下がった、さらに性の象徴:肉欲としての悪のイメージなどがやがて山羊を悪魔的象徴にさせてしまったのだと考えられる。

goat2.png そこで創造されたのがバフォメットである。画像に示すものはエリファス・レヴィが描いた世界で最も有名なバフォメットの画像であり、これは19世紀のものなわけだが、最初にバフォメットは11世紀あたりにラテン語文献にて登場したとされている。この時点ではキリスト教にとっての異教の神を指していた言葉だとされている。その後、徐々に悪魔的なイメージをすえつけられ、後に有名なテンプル騎士団が崇拝していたと言いがかりをつけられたのもこのバフォメット像だとされる。これは当時のフランス王朝が貧困にあえでいたときに、テンプル騎士団の潤沢な資金源をスポイルするために壊滅に追いやるための方策であったことが現在の主論になっている。このときの拷問によるバフォメット像の偶像崇拝の是非については、実際様々な発言があったとされ、拷問に耐え切れずに様々な悪魔的イメージを据え付けるに至った。

 このあたりでバフォメットに付きまとう悪魔的イメージを決定づけられたとされ、たとえば姦淫に関しては先ほどのパン神における記載の通りであるが、さらに男色(Sodomy)の内容も付け加えるため、両性具有のイメージが取り付けられている。

 その後、異端審問は主に民間による私刑によって広まりながら、そのイメージを拡散させていったとされる。たとえば魔女とその宴であるサバトもまたそのイメージの流布によるものである。異端審問官や学者が流布させたとみる向きもあるが、最近の学説では国家による異端審問は従来言われているほど苛烈ではなかったとされており、むしろ民間での恐怖、不遇、など様々なネガティブイメージがそうさせていったのではないかと思われる。その中でも魔女が山羊の背中に乗って飛来しているイメージや、バフォメットがサバトに参加して参加者と性交しているイメージも付いたとされている。

 以上が山羊の悪魔的象徴化の経緯である(一部、推論が含まれる)。そしてやがてキリスト教的解釈による悪魔を象徴とすることで個人主義哲学をうたったのがサタニズムというわけである。


■ ブラックメタルにおける山羊モチーフの始まり

 さて、ようやくここでブラックメタルにおける山羊モチーフの話に移るわけだが、まず先に書いておくと筆者は悪魔思想的(ユーモア含む)な音楽全般について詳しいわけではなく、特にへヴィメタル以前のものについては全く疎いし、恐らくそういったものは昔からあったのではないかと推測している。もしそのあたりに詳しい方がいたらぜひTwitterやコメント欄などで教えてもらいたいし、さらに言えば寄稿してくれたら存外な喜びである。

 閑話休題、ことブラックメタルにおいて山羊モチーフとして思い浮かべるのは、まずは何はともあれVenomであろう。有名な1stや2ndアルバムはもちろんのことであるが、あえて取り上げるのは1stデモテープのジャケットである。

venom_demo.jpg


 五芒星(ペンタグラム)をさかさまにしたものにバフォメットを重ね合わせたようなイメージになっている。元々オカルト分野においてペンタグラムはオカルト的に古来から用いられてきた記号であるが、逆向きにして悪魔的なイメージを持たせたのは20世紀に入ってから悪魔主義者によるものだという。つまり、Venomはサタニズムのイメージで用いていることになる。もっとも彼らに「その気」はなく、イメージ戦略のようなものだったようだ。

Bathory_album.jpg 一方で、それを本気で解釈したのがBathoryだといえる。1stアルバムは何度見ても惚れ惚れするジャケットだ。ただ単に山羊の絵(というよりもバフォメットだろうが)がかいてあるだけで、こんなにもイーヴィルな雰囲気が出ている。クォーソン氏が「Venomなんて聞いたことがない」といえばそれを信じるのが信者ってもんだろう。でもバフォメットの顔だけジャケにしたのはまあパクりといわれてもしょうがな…、、、

 ともあれ、このアルバムジャケットは1981年に発行されたErica Jongなる作家のWitchesという書籍に使われたもので、Joseph Smith,という人物が描いたものだという。クォーソン氏は初めは白ではなく金色の配色をしようとしたが、プリントコストがかかるために黄色で配色したが、後により悪魔的印象を持たすために白黒に切り替えた。初期リリースのみ、黄色のGoat仕様になっているため、今でも"The Yellow Goat"と呼ばれてコレクターズアイテムになっている。


■ まとめ

 まず山羊がなぜ民間で重宝され、そして神話に登場するに至ったか、そしてキリスト教の勃興から権力化によって、その神話が異端のモチーフになっていったことに説明し、さらにそのような異端モチーフはやがて迫害の象徴として悪魔化していくとともに、近代~現代においては悪魔主義や反キリスト教主義の象徴になったことを説明した。

 そのような中で悪魔主義をイメージ戦略として用いたVenom、そしてそれを真に受けたBathoryというブラックメタルのルーツである二大巨頭が各々ジャケットに山羊を使用した影響はその後のブラックメタルに対して間違いなく大きく、その後のブラックメタルにおいても重要なモチーフとなっていった。

 長くなったので今回はここまでにして次回は具体的に90年代~現在に至るまでの"Goat Black Metal"について紐解いていくことにしよう。

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Interview with Zero Dimensional Records 

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 今回、当ブログ初の試みとして、日本にある数少ないブラックメタルのディストロ兼レーベルである Zero Dimensional Records(以下、ZDR) のオーナー、大石さんへのインタビューを行った。ZDRは2009年に設立され、今年で5年目を迎えており、世界中のUGレーベルを見渡しても、生まれては消えを繰り返す新陳代謝の高い界隈の中で、ブラックメタルシーンへの継続したサポートを行っている優良レーベルの一つである。今回のインタビューはそのようなUGシーンを理解し、その敷居を低くすることを目的としている。



―ZDRの自己紹介と、設立に至る経緯を教えてください。

 Zero Dimensional Recordsです。ゼロ次元で通っていますが、先代にアートワーク集団が居ること(※1)に後で気づきました。

 設立に至る経緯は、ふとレーベルなどでオーダーしている時、1000枚、666枚プレスなどが売り切れている中で「作ったCD全部売っちゃえば単純計算1000枚×1500円で150万円。めちゃくちゃ儲かるやんけ!」と思ったことがきっかけです。とりあえずディストロから始めようと思い、適当に名前付けて(Zero Dimensional Recordsも仮名でしたが、ずるずる今に至ります。なので、特に意味がない名前です)作ったのがZDRというディストロです。

 後日談なのですが、結果は惨敗。特に宣伝もしていない島国のレーベルがポンとリリースしたところでまったく売れるはずもなく、借金して作ったCDは初動3枚とかでした。入荷してもひたすらたまる在庫、仕事の給料を突っ込んでは入荷し、売れない、溜まるを繰り返し、給料日に入荷物に給料を全部突っ込んで、CD1枚売れないと飯が食えない状態が続きました。体重も30kg減りました。

 因みに去年くらいからやっと黒字っぽい兆しが見えてきました。実店舗を構える前あたりです。それまでは借金がありましたが、この辺からちょいちょい返して、最後の追い上げでレーベル休みにして全額完済して今に至ります。今考えると、以前から投資というか、過剰に残っていた在庫が捌けて、ようやく売り上げが帰ってきたのかなと思っています。

―ZDRのレーベルカラーはありますか?

 多分ないです。節操がないと思われるのもこれが原因かと思います。私自身が幅広く好きで優柔不断なので、一本に絞れないというためです。これ自体がカラーになってくれればうれしいのですが(笑)

―レーベル運営におけるポリシー、目的、目標などありましたら各々教えてください

 上記の通り、当初は金儲けしたい!!で始まりましたが、知り合いのある一言がきっかけだった気がします。

「日本ってアクティヴにやってるレーベルほとんどいないから良いところに目をつけたね」

 言われてみれば、国内シーンについて大好きだからこそ盲目になってた部分があります。ディストロを始めた時こそ、ちょうどArkha Svaあたりが出てきたことで盛り上がっていたので、国内シーンも大きいと思っていましたが、実際はすごく小さかったんですよね。

 ならば、もう少し何かできないか。大好きな国産バンドをいっぱいリリースして、ライヴとかできないか。そういうことを考えて日本のバンドをもっと大事にして行こう。ライヴとかをやっていれば、いずれ新人もたくさん出てくるだろう。風がなければ何も動かないので、とりあえず自分が風になって何かを動かせば、反動でまたどこかが動くだろう。そう思うようになりました。今でもがむしゃらです。目標は未だになく、それ以前にまだまだ弱小レーベルだと自覚していますし、しがみついていこうと思っています。

―設立当初と現在では考え方が変わった、と。

 すごく変わりました。一番大きく変わったのは、カルト的な考えはレーベルをやってる時点で捨てようと決心したときでしょうか。

―国内バンドの音源を数多くリリースしていらっしゃいますが、契約基準のようなものはありますか。

 国産バンドとの契約基準は色々ありますが、とにかくカッコよければOKです。私の好みもあり、断ったバンドさんも少なからず居ますが、カッコいいバンドは自ら声をかけていきました。とにかく当初はどのバンドもアクティヴじゃなく、バンドも少なかったのでmyspaceなどで探したり、動きまくりました。現在は色々なバンドがアクティヴになってきていて、CD作るから協力してほしいと、相談をいただくこともあり、調査の方はズボラになってきています。私自身の好みはDarkthroneの初期あたりのプリミティヴでメロウなブラックなので、基準ではないですが、そういうスタイルには弱いですね。

― 一方で昔の日本のUGブラックメタルの初期音源再発なども多数行っていらっしゃいますね。

 先ほど触れたとおり、国産ブラックメタルが好きなわけですが、過去の消えていったバンドの音源がとにかく手に入らなかった。でも探してる人は自分以外にも結構いたんですよ。なので、音源再発に踏み切ったりしていました。完全に自己満足で、最初はGorugothを出しました。出す前はデモテープもダビングしか持っていませんでした。

 結果なんですが、過去に活動していたバンドメンバーさんに火がついた方もいたりして、GorugothもKoozarとしてシーンに戻ってきたり、何らかのアクションがありましたし、昔を懐かしむ声もいただきました。再発の目的は本当に自己満足で始めましたが、結果オーライだったんじゃないかと思いつつ、その無計画さを恥じています。

―国産ブラックメタルの再発で、興味はあるけどコンタクト先が解らないバンドなどあれば教えてください。

 4年前くらいからずっと言っているのは名古屋のInsanity Of Slaughterです。途中の行方まではつかめましたが、最後まで辿りつきませんでした。探偵を雇いたいレベルで再発したいです。これを見てくれたメンバーさん、Zero Dimensional Recordsまでご連絡ください!!

 あとは、Dunkel、Belphegoth。Ohura MazdoはDr.の許可こそ下りましたが、リーダー氏へ連絡が取れず、最後のコンタクトアドレス先まで自転車で家を探しに行きました。が、同姓の家がいっぱい並んでおり断念しました。



―ZDRのサブレーベルについて紹介してください。

Hidden Marly Production: ZDRは当初「日本のバンドしか出さない!」と決めていましたが、フランスのQuintessenceとやり取りしているときにCDの再発を持ちかけられたことがきっかけで、とりあえずでっち上げて、そのままサブレーベルとして残しているものがずるずると来たのがこれです。基本的に海外バンドだけリリースするレーベルとして置いています。

Maa Production: Thränenkindとやり取りしていたら。彼らが日本のシーンに興味があるということでリリースの話が出まして、でもHMPだと毛色が違うし、ならばポストメタルやデプレレーベル作るかともう一個節操なく作ったのがこちらです。

East Chaos Records: これはZDRのサブレーベルと勘違いされている方が多いのですが、元々は愛知県のレーベルで、在庫やKanashimi、Hopelessのリリース権利等を買い取ったものです。

―海外のバンドとも、特に最近は勢力的に契約されているようですが、どのように契約まで至っているのですか。時にかなりのマイナーなバンドを発掘していらっしゃいますね。

 海外バンドとの契約基準については、色々好きなので、本当にレーベルカラーが出せない感じでしたが、最後かっこよかったらいいやということで、気に入ったバンドなら契約しています。最初はmyspaceで探したり、「過去音源が良かったから新譜うちでどう?」みたいな感じで誘っていきました。現在はリリースしたバンドの友人が「うちのバンドも出してよ!いい噂聞いてるよ!」みたいな感じでリリース話を持ってきてくれたりしてくれています。マイナーバンドがたまに居るのは8割型向こうから連絡をくれている場合です。

―そのように海外のバンドの音源をリリースする目的はなんですか。

 1つはもちろんバンドへのサポートですが、ディストリビューションの際、日本のバンドだけだと見向きもしてくれない海外レーベルも少なからずいます。しかし、例えば自分の国のバンドが、Japanとかいう訳のわからない島国のレーベルからリリースされていて、その情報を見たら日本のバンドにも興味を湧いてもらえるのではないか、ということもちょっと狙ったりしています。つまり結構、日本産贔屓な理由で契約していたりします。

―海外バンドとの契約について教えてください。個人的にはZavod’の次のリリースが気になっています。

 契約は1作品の権利を保有したり守ったりしています。つまり「他にいいレーベルあったら悔しいけどそっちいってね。大きいレーベルから連絡あれば、そっち行ってうちを踏み台にしていいよ」ということで、バンドさんを束縛するような契約はしていませんね。ただ、うちでリリースしたバンドは大体戻ってきてくれたりします。Zavod'も「次の作品もよろしく」と連絡が来ていましたが、契約自体はしてないのでどうなるかは解りません。

―個人的なコメントですが、Black CiliceのCD再発はとても有り難いものでした。今後のHMP、MAAのリリースについて予定されていることがあれば教えてください。

 ありがとうございます。Black Ciliceのリリースは一部ですがなかなか好評でこちらも嬉しかったです。HMPはフランスのNightが今、結構話題になっている気がします。来年あたりにリリース予定です。他にはJuno BloodlustのドラマーがやっているAdversam、お馴染みHappy DaysのMorbid氏のPreteen Deathfuk のスプリットもリリース予定です。

 一方でMaaの方ですが、As Light Diesのリリースを控えています。未だに不可解なのですが、Code666を蹴ってまで来てくれました。かなりハイクオリティなアヴァンギャルドブラックメタルです。あとは1年以上待っていますが、Coldworldの廃盤EPの 日本Verを再発する予定です。告知はまだしていません。とにかくいつ出るかわかりません…。

―名前が出たフランスのNightですが、今度のブラックメタルファンジン(※2)でインタビューが掲載されるそうですね。なかなか個性的な発言も多いようで楽しみです

 そうみたいですね!個人的にも楽しみです!何の人脈もなくぱっと出てきたバンドを拾ったのですが、アクティヴに活動していて、インタビューも載るみたいなので、ぜひ1stアルバムにご期待ください!!

―As Light Diesは2010年リリースの2ndアルバムを聴きましたが、かなりゴシック要素の強い印象があります。

 今回もゴシックは強めでアヴァンギャルドな感じも強く出ています。どちらかというとUGさはあんまりなくメジャーさが溢れているのでうちで 大丈夫なのか心配になるくらいの出来です!



―次にディストロ運営の件については入荷の基準などはありますか。

 ディストロに関しては、最初はカルトぶったり、自分の気に入った厳選CDだけをただ金儲けのために入荷していました。しかし先ほど触れたとおり考え方の変化もあって、現在は海外のリストを貰えば万遍なく入荷して「日本だったらここはディストリビューションしてくれる!」という海外レーベルからの評判を得られるような品揃えにしています。一部からは節操なく入荷しているように見えるかもしれませんが、一部のコレクションディストロ的な「うちのカラーはこれだ!」っていうのが正直決められないくらい色々好きなので、それだったらいっぱい取り扱えばいいや、っていう感じです。

 海外から見れば、日本の音楽シーン、CDの流通はかなり良いらしく、何とか日本に1枚噛みたい!というレーベルも少なくないです。そのかわりZDRのリリースもそっちの国でディストリビューションしてよ、という交換条件でうまくまわせたらと毎日思っています。海外レーベルとのやり取りは近年増えてきた気がします。

―海外ディストロとのやり取りで困ったことなどありましたら教えてください。

 挙げていくとキリがないのですが、とにかくリップオフじゃないでしょうか。最近はあんまりなくなりましたが、最初のほうは散々舐められまくっていました。そろそろ被害総額30万円を超えそうです。

―海外からのオーダーは多いのでしょうか。

 ほとんどないです。一部の日本バンド好きはオーダーをくれますが、送料の高い島国でわざわざ買おうとは思わないみたいですね。音源クレ、mp3クレ野郎はいっぱい居ます。

―ディストロの方でなかなか注目されていないけど個人的にオススメ!という最近の音源があれば教えてください。

 難しいですが、まずは Hats Barn - A Necessary Dehumanization ですかね。激クサでよかったです。このバンド自体があまり人気のない印象です。

 あとはちょっと古くなりますが、Fortid - Pagan Prophecies、あと解散してしまいましたがZwartplaagのフルアルバムと特にスプリット音源も。これは結構古いですね。

 探せばまだまだありますが、在庫が多すぎて思い当たりません・・・・

―ちなみに実店舗として黒屋も共同運営(※3)されていますね。外から見た雰囲気はラーメン屋でしたが圧巻の商品量で驚きました。実店舗ならではの取り組みなどはありますか。

 ありがとうございます。ラーメン屋っぽいと言われたいがためにがんばりました。うれしいです。実店舗ならではの取り組みは…まったくないです。どうしてもCDを手に取りたい!という方のために始めましたが、レーベルを兼用しているので、お客さんが連日わいわい来られるとレーベル業務ができなくなります。だから、たまにちらほら来てもらうくらいで大丈夫かなと思っています。毎週来てくださる方とかもいらっしゃいますが、ここまで立地悪いと気軽においでくださいとも言えませんし、めっちゃ申し訳ないです。

 でも、いらしたら満足いただけるように、ちょっとずつレイアウトを変えてみたり、商品に一言コメント入れてみたり、PCのスピーカーをハイレゾで聴けるようにDAC組んだりしています。あともうちょっと資金とか作れたらレコードプレイヤーとかも設置したいと思っています。ブラックメタルが当時のパラパラくらいブームが着たら心斎橋あたりに2号店オープンさせたいです。



―またそれらの運営とともにブラックメタルのイベント、Black Sacrificeを開催されていますね。こちらはどういったポリシーで行われているのですか。

 以前はあったブラックメタルのイベントですが、近年めっきりなくなってしまい、たしかFenrisulfだったかが「ライヴがなかなかできない」という話をしていて、それならば企画してみようかと始めたのがきっかけだったと思います。Fenrisulfはメンバーがあまり表に出ない感じで、ライヴもしにくかったとかだった気がします。

 ポリシーですが、表面上の理由としては「自分が見たいバンドを出す」ということでやっています。で、そんなときにちょくちょく海外からジャパンツアーの話があって、海外バンドも呼んでみようかと思うようになり、今に至ります。現在は知名度のある海外バンドを呼びつつ、なるべく日本のバンドを招待して、海外バンドにしか興味がないお客さんにも日本のバンドを知ってもらおうと思っています。「日本のバンドのときはバーで飲めば良いわー」みたいな事を言われたこともありますが、やるかやらないか、0より1だったら1のほうが確率はあるわけで、何とかやっていきたいと考えています。

―今までのイベントで何かこぼれ話などありましたら教えてください。

 とにかく最初は呪われていた企画でした。1発目から東日本大震災で延期、延期後はメインのCataplexyが事故でキャンセル、2回目はNegură Bungetが飛行機のストライキで来日できない。次に何か起こったらやめようと思っていました。

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―そして次回のBlack SacrificeではあのSatanic Warmasterが来日しますね。先にコンピレーションのリリースも行われましたがどのような経緯で契約に至ったのですか。

 話題性を出したいということもあって「ツアーするならうちでCD出してみないか?」と軽くオファーをしたら「日本語で帯とか作ってくれるならいいよ!」ということで軽く決定したのが確か2年前くらいだったと思います。正直ツアーだけで完全黒字を出すのはCelestiaのときの80万円の赤字(※4)で無理だとわかったので、CDだけでもなんとか利益+広告になってくれないかという思いもありました。次に大赤字を出すと日雇いのアルバイトか、最悪今度こそ店を畳むハメになるのでなんとかクリアしたいところでもあったので、リリースできてよかったです。

―ちなみにあのコンピレーションをHMPではなくZDRでリリースしたのは何故ですか。

 最初は非常に迷いました。最近はZDRで一本化したいと考えつつ、HMPもそこそこ大きくなってきた気がするので捨てる勇気も出ず、バンドさんにも申し訳ないので最近だとHMPはマイナーなバンドを支えていこうと継続しようと。だから今回のリリースがZDRからだったのは、ほぼZDRの売名行為だと思ってくれていいです。「Satanic Warmasterの新譜でたの?どこ?日本のレーベル!?へぇ、日本もバンドいっぱいいるじゃん」という海外へのアピールが狙いでした。

―そして来日公演の方はどのようなショウにしたいですか。

 お客さん、出演者が楽しんでくれればいいなと思います。Satanic Warmasterサイドは「ジャパンツアー行ってきたよ。ゼロ次元すごくよくやってくれたよ」と思ってもらえれば、フィンランドのシーンで名前が広まり、フィンランドのバンドが呼びやすくなりますし、国内バンドさんの方も楽しかったらまた出たいと思ってくれるかもしれない。お客さんも楽しかったらまた来てくれるかもしれないし、とにかく次へ繋げたいです。今回は海外からもSatanic Warmasterを見に来るという猛者も数人いるそうなので、日本のバンドさんには是非ともがんばってほしい!

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フライヤー(クリックで拡大)




―さて、少し大石さん自身への質問をさせてください。今までのお話をまとめると、大石さんのレーベル運営は全て「日本のブラックメタルシーンのサポート」に帰結しています。そのモチベーションである日本のブラックメタルシーンへの愛着について 大石さん自身のバックグラウンドを教えてください。

 たしかきっかけはCataplexyのEPだったはずです。ふと日本にもブラックメタルバンドがいるのかな、と思って探していたら某バンドが引っ掛かりましたが、全然好みじゃなかった。しかし、さらに掘り下げると、CataplexyやFuneral Elegy(現Hakuja)などを見つけて、聴いて、まだ1リスナーであるときにコンタクトをとったり、ライヴに行ったりしていました。正直、当初はそんなに国内のメタルシーンに良い印象はありませんでしたが、ブラックメタルやデスメタルに関しては日本人のセンスはずば抜けているとこの頃から思っていました。

 ZDRを始める頃には既に国産バンドが好きでしたが、国産バンドのサポートを思うようになったのは、レーベルを開始して2年くらい経ってからでしょうか。好きな国産バンドがあまりにも注目されていなかったり、「日本人がやるメタルは偽者」なんて言ってる人にも会ったりで、とても複雑な思いでした。個人的な感想ではありますが、多方面で絶賛されてる”海外”のバンドより、日本のバンドをヨーロッパ方面で産地偽造してアピールしたらサウンドだけでは負けないと思っています。


―私の意見としては外国人は日本産というものに異国情緒を求めがちだと思います。国産バンドが国産バンドであることを明らかにしつつ、世界的に認められるためにはそのような異国情緒を汲みこむ必要があるかもしれないと思います。それが良いことかどうかは別にして。

 そうですね。実際、凶音やMortes SaltantesはUGなら海外で大好評です。個人的にはInfernal Necromancyの国産ならではのメロディーを紡ぐサウンドはもっと評価されてほしいところですが「わかる人にはわかるけど、外人にはわかんないだろうなぁ」と思います。

 でも、こういうバンド達にインスパイアされて出てくる後続バンドが、後に「日本らしさ」を作っていくかもしれません。「○○のパクリだー」「オリジナリティーがー」とかグダグダいう人も居ますが、自分の持っている音楽のボキャブラリーを掘って曲を作れば、日本人らしさが自然に出てくるとおもいます。正直、何がきっかけで有名になるかわからないのがこのシーンです。手っ取り早いのは海外にツアー行ってライヴすることですが、自分らしさをもっていればいいかなと思います。


―ちなみに海外に日本のバンドをプロモーションしていくにあたって、例えば今すでに使われているBandcampの更なる有効利用としてDL販売などは考えてらっしゃいますでしょうか?過去の音源でもデジタルDLできるようになれば海外へのアピールにもなるかもしれません。

 Bandcampのリリースは悩みつつも未だ結論は出ていないです。私はコレクターで現物ないと気がすまないパターンなので今はまだ考えられないなぁ…と思っていますが、今後検討していこうとは思います。電子書籍なんかも、会社が潰れて再DLできませんとかありましたが、こっちもあったりするんでしょうか…不安です。

―逆にアナログリリースに対するお考えは?

 正直、今すぐにでもやりたいです。ただ、膨大な資金がかかりますし、そのわりにはディストロのLPの売れなさや、輸出入のコストなどを考えるとなかなか難しいですね。テープも当時は主流にしていこうと思っていましたが、Ampulhetaのデモテープを出したときに「プレイヤーがないので買わなくていいや」みたいな声を聞いたり、実際売切れるまで時間がかかりました。その後は、テープでリリースする意味があるのかちょっと考えてしまってなかなか次へ行くことができません。

―大石さんご自身はブラックメタルやそのシーンに対してとてもリベラルな精神をお持ちだと思いますが、よく言及される「精神性」、「神秘性」、「哲学性」のような抽象的な側面に対してはどのように考えてらっしゃいますか?

 正直よくわからないです。ブラックメタルを好きになったのもサウンドが好みだっただけで「教会燃やしてすげー!人殺ししてすげー!」で聞いたことはありません。神秘性=話題づくりじゃないかなと最近は思っています。もちろんその観点は、現在に至ってそれを実行する事に対して、哲学が無いものだと思っています。過去から一貫してシーンに出てこない、顔を出さないバンドやアーティストさんには哲学を感じますし、敬意を持っています。そのように哲学的なものは好きです。歌詞なども良いですね。そんなにじっくり歌詞翻訳とかしたことないですが…。また、私個人としては「Anti religion」ですが、音楽性については特にどうも思いません。黄色人種死ねブラックだったらさすがにサポートしたくないですが。

―実際、日本のブラックメタルシーンについてどう思われていますか。成熟されてきたのでしょうか。

 多分、まだ成熟していないと思います。レーベルだけでなくバンドが少ないですし、そもそもお客さんも絶対数では非常に少ない部類です。ディストロも出てきては消え、出てきては消えとしていますね。ディストロをやるにしてもお客さんの絶対数が少ない中、客の取り合いになるのは目に見えているので、ハードコアシーンみたいに「やってやるぜ!」って馬鹿な事を考えて始めるのは私くらいでしょう。

 レーベルが増えるとしても、小さいレーベルについてはありだと思いますが、どっかでやめてしまうくらいならやらないでほしいと思います。リリースした音源の権利を持ったまま潰れて音源が再発できず、バンドが改名したり、やめていったり、ディストリビューション力がなく、在庫に埃を被せているだけのパターンも散見されます。たかがCD、LP1枚ですが、最後まできちっと面倒を見ることができる人がやるべきだと私は考えます。そんなことをやっているレーベルがカルト的な雰囲気や希少さでレア価値を生むのが最近どうも歯がゆいです。

― 一方でアンダーグラウンドである以上、やはりリスナー側のサポートも大事だと思いますが。

 レーベルの立場として「サポート頼む!サポート頼む!」と連呼するのは嫌いで、「CD買ってクレー」とは言ったこともないです。ただ個人的に望むのは「良かったら、気に入ったらお金使ってね」ってことで、それが結果としてサポートにつながります。過剰なサポート意識はうれしい反面、リスナーの負担にもなりますし、ボランティアみたいで、こちらとしても心苦しいところもあります。 すごく、すごくうれしいのですけどね!

 だから、「良かったら、気に入ったら買う、ライヴに行く」ってだけで、少し気を使ってくれるだけで、本当にサポートになっています。少し心がけてくれれば全員サポーターです。身内です。内輪のり結構じゃないですか。こういう点に気づいてくれるか否かでかなりシーンも変わってきます。海外のシーンとか行くと「俺ライブに行ってるしサポーターだぜ!ファンだぜ!」ってアピールする連中がたくさん居ます。UGシーンはメジャーと比べてアーティストさんとの距離も近いし、Satanic Warmasterの来日ライヴも恐らくメンバーもライヴハウスの中をうろうろしてますし、みなさんガンガン来てください。

―長いインタビューになりましたが、丁寧に回答くださりありがとうございました。

 こちらこそありがとうございました。若輩レーベルがえらそうなこと、キレイごと並べてすみませんでした。うちのような若輩レーベルが生き残るには、シーンに密接に関わって、信頼などを得られないとダメだとおもって必死でやっている毎日です。

 もともとは欲の塊みたいなものでしたが、シーンを盛り上げたいというか「日本のバンドかっこいいよ」って言うのを知ってほしいと切に願っていますし、またブラックメタルリスナーの人口はそこまで少なくないはずなので、深くまで入ってきてくれるリスナーが増えるといいなーと思っています。ブラックメタル好きという方に何人も会ってきましたが、「一番マイナーでDark Funeralかな」なんて言われたりしたこともありますが、ちょっとでも入り口なんかを広げたりできればいいなと思います。

 それではZero Dimensional Records、ZDRもしくはゼロ次元、今後ともよろしくお願いいたします。

Link to:
Zero Dimensional Records
Zero Dimensional Records Online Shop
Black Sacrifice
黒屋 -KUROYA-



(注釈)
※1 1960年代から1970年代初頭にかけて活動していた前衛パフォーマンスアート集団。
※2 ギリシャのブラックメタルバンド、The Shadow Orderの名曲タイトルから引用されたEnd Of Journeyというブラックメタルファンジン。ネットによる有志集団で執筆されており、私もvol.2で参加した。Vol.4が目下製作中とのことで、そこにNightのインタビューも掲載されるとのこと。
※3 Amputated Vein Recordsとの共同経営。なので黒屋にはブルータルデスメタルの品ぞろえも強い。
※4 Black Sacrifice Vol.5としてCelestiaの東名阪ツアーが行われたが、フライトチケットなどの出費が著しく、大石氏に多大なリスクを負わせてしまった事件。あのときのツアーTシャツ、私はちゃんと買いました。



 以上、ZDRの大石氏へのインタビューである。興味深い話も多く、この手のインタビュー記事の中ではかなり分量の多いものになったが、本文からもうかがえる通り、レーベルの設立時のエピソードから今に至るまで、ポーズをとることのない純粋な姿勢が垣間見れるとともに、日本のUGシーンへの真摯な想いとサポートへの責任感を強く感じさせるものであった。

 我々1リスナーは飽きたら聴くのを辞めればいいというノーリスクの立場ではあるが、このように人生を賭けてサポートを行っている人がいるからこそ(ZDRだけでなく)、素晴らしい作品が我々の元に届くし、またライブを堪能することができることについて無視してはいけないということを改めて感じている。

 そのために我々ができることというのは大石氏も仰っているように「少し心がけること」であり、それによってUGシーンに対する距離感がより身近なものになるということも必要なのではなかろうか。サポートをするということ自体はとても敷居の低いものなのだから。

 なお、万が一でもInsanity Of Slaughterのメンバーさんや関係者の方がこのインタビュー記事に気付いたとしたら、是非ともZDRまでコンタクトして頂きたく思います。宜しくお願いいたします。

 また、今回のようなインタビューは継続して行っていく予定で、今後は国内外のバンドにもインタビューの御依頼をオファーしていくつもりです。逆オファーも承っておりますので、今回のインタビューをお読みいただいて興味がわいたバンドさんは是非是非、お声がけいただきたく思います。御覧の通り、零細ブログですので宣伝効果とは無縁のものですが、真摯に対応させていただきます。
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【column】 Polish Black Metal Scene - IV 

【前回】 Polish Black Metal Scene - III

■ ベテラン勢の現在の活動

 現在のポーリッシュブラックメタルシーンにおいて、本コラムで既に紹介した初期から活動しているベテラン勢の存在感は未だとても大きい。

 まずはBehemothだが、紹介したとおり最近までは「グローバルセンスのペイガニズム」をテーマにしたエクストリームメタルをプレイしていたが、2009年にリリースされた9thアルバムの"Evangelion"はドイツ語で「福音」の意味を持つタイトルを持ち、逆説的な表現で使っている。更にNergalの白血病罹患と克服を経て、今年リリースされた新譜の"The Satanist"は巡り巡って"サタニズム"をテーマにした作品になっている。残念ながら筆者は未聴なのだが評判が良いのでいずれ購入するつもりである。

 一方でGravelandは相変わらずマイペースで淡々と活動をしていて、昨年には13thアルバムの"Thunderbolts of the Gods"をリリースしているが、ブラックメタルそのものからの決別(キリスト教という存在によるサタニズムからの脱却)をしてからの彼の作風から少しもブレていない。NSBMそのものではないと主張しつつも、政治的信念自体は変わっていないようで、2000年代に入ってからのスプリット相手もNoktunal Mortumから、RACバンドのHonorやKreuzfeuerといった様相である。

 その二つのバンドから比べるとネームバリューこそ落ちるが、Besattも今でも活動を続けており、昨年にはテープマテリアルのボックスセット(通称「木箱」)がリリースされるなど、アンダーグラウンドでの支持は厚いし、最近の作風も素晴らしい。またChrist Agonyは一時期名前を変えて活動していたが近年は名前を戻して活動中である。他にArkona、Dark Fury、Selbstmord、Black Altarあたりは2010年代に入っても精力的に活動している。特にArkonaは近年の作品も実にすばらしい。

 他にあのポーリッシュブラック第一世代頭であるPandemoniumは"Satanic Dark Metal"と自らを称して今でも活動しており、今年に入ってシングルのリリースもしていたりする。


― ポーランドメタルシーンについて

 とても強固だと思うが、多くのバンドはまだブレイクスルーに問題を抱えている。英語ができないためコンタクトがとりづらく、マネージャーもいないんだ。彼らの成功にはデキるプロフェッショナルなマネージャーが必要だ。あとは周囲に信頼する人間もだ。ポーランドにはそういう人間がいないんだ。
(Nergal from Behemoth)

― 歌詞をポーランド語で書いて、翻訳してもらっていると言うのは本当ですか?

 本当だ。私はいつもポーランド語で歌詞を書く。ポーランド語から英語への翻訳は難しいようで、時々大きな問題も生じる。私の歌詞は大体は詩的感情を抜いた生々しくシンプルなものなのだが、それでもまだまだ難しいようだ。世界中にはミカエル(翻訳者)のようなGravelandをサポートしてくれる人がたくさんいるんだ。私の英語はとても貧相で、他の人の力を借りざるを得ない。手紙やEメール、インタビューの回答についてもね。
(Darken from Graveland)

― ポーランドではブラックアートの支援は十分ですか?

 全くと言っていいほど皆無だ。しかしポーランドは伝統的なカトリックの国だし、だからこそアンチクリスチャンは力強く誇り高い。我々はそこにいる。きっとそういう国だからだろう。多くのブラックメタルバンドがアンホーリーライフを築いている、そこにはきっと「バランス」があるのだ。
(Besatt)

― どうしてポーランドに素晴らしいブラックメタルバンドが多いのですか?

 ポーランドのミュージシャンが何に触発されているのか、もしくはほかの国と何が違うのか、それを言うのは難しい。しかし唯一考えられることとしては、ここでは非常に伝統的なカトリック教会が生活に組み込まれているということなんだ。これがこの国でキリスト教主義に対する反発を生んでいると考えられる。一番の例としてはGorgorothのギグがポーランドで行われたとき、DVDで録画したのだが、そのマテリアルは警察に押収されたんだよ。
(Black Altar)


■ ポーリッシュアンダーグラウンドシーンの今

CdG.gif いわゆる2000年以降に結成された若手~中堅に属する、現在のポーランドブラックメタルを象徴するであろうバンドに関しても、今までこのコラムで触れてきた90年代から活動するバンドの人脈筋であることが多い。例えばSunwheel
、Kriegsmaschine、Furia、Massemord、Mgla、Legacy of Blood、Blaze of Perdition、Flame of War、Demonic Slaughter
あたりのバンドはいずれもそれに該当する。

 しかしあえてその人脈筋から外れたところで有力なバンドを挙げるならば、Cultes des GhoulesUpirだろう。両バンドのインタビューを以下に紹介するが、当初のポーリッシュブラックメタルシーンにあった、カトリックからのカウンターカルチャーとしてのブラック/ペイガンメタルというモチベーションから離れた、ポーランドからの新しいブラックメタルという印象を強く受ける。


interview with Upir

―ポーリッシュブラックメタルシーンについての意見は?

Skogen: 90年代半ばこそ「大きかった」が、それ以降はシーンの内側に閉じた活動を望むようになって、規模がシュリンクしていった。その結果、他国のジンやレーベルに取り上げられることもなくなってしまった。それは悲しいことだ。さらにシーン内部での争いもはじまり、皆エゴを振りかざして”ポーザー狩り”が始まった。それによって、その「大きかった」シーンとやらは、その歴史的な価値まで格下げされてしまって、まるで見世物小屋のようになったのさ。
だからポーランドのブラックメタルシーンが「大きい」なんてナンセンスなことだ。確かに沢山のバンドは存在していたが、それらも偽物だとかポーザーだとか糾弾されて消えていった。クソ野郎どもが「トゥルーでカルトな90年代」とかいう枠に当てはまるかどうか、ふるいにかけていたのさ。


― NSBMに意見は?

Skogen: NSBMブームは過去の話だ。昔こそ私も関わっていたが、世の中は変わった。私は自己哲学に目覚めて、そこから抜け出た。私はどんな肌の色だって同様に憎むし、そもそもこの地球自体、隕石でも落ちたりして滅びればいいとさえ思っているんだ。それをこの目で見るために長生きしたいのさ。もちろんVelesとかFullmoonとかそういう過去のバンドの作品は好きだが、イデオロギーが先に来て、音楽性が後に来るバンドはクソだね。自身の政治的なイデオロギーに信念があったとして、音楽でそのプロパガンダを広めて人を感化させたいと思っているのに、審美的価値のない歌詞にして、100本くらいのテープリリースしかしないとか、それはまさしくアンダーグラウンドの所業ってやつで、目的と行動が一致していないんだ。ゆえにNSBMのほとんどは「音楽」という基本的なベースを失っているのさ。俺は音楽も歌詞も等価に考えているし、それに誇りを持っているよ。

Legion: よく言われている「音楽と政治的観点を混合したらダメ」ってことなんだけど、それはもちろん納得したうえで、でも真実は吐露されるべきものだし、とても少ないけども歌詞でしっかりとした政治的信念を述べているバンドはいるんだ。ほとんどのNSBMの歌詞はそういうものじゃないけどね。私はアーリア人種がどうとかこうとかはいわゆる「嫌悪」による人種差別そのものであると理解しているけど、ブラックメタル自体が「嫌悪」という要素を含蓄していると思う。私個人としては「メタルが反抗、サタン、死の象徴」だと思う人の意見は完全に理解できるけれども、「白人のユートピアビジョン」についても否定をするつもりはないんだ。誰かが悪魔についての歌詞を書いて、他の誰かがNSについて書いたとして、それのどこに問題があるというんだ?個人的には私だって右翼的な政治思想はあるけれども、それについて音楽で表現するつもりはないだけだ。私は自分自身しかフォーカスしない。それが私のルールなのさ。



interview with Cultes Des Ghoules

― Cultes Des Ghoulesの名前の由来と音楽的アプローチとの関係は?

 メンバー全員がラブクラフトの書籍を愛読している。あれはとても神秘的な世界観を持っているんだ。だから我々はポーランド発の正体不明なバンドとしてその本から拝借したんだ。パーフェクトなネーミングだ。やっている音楽ももちろん神秘性を表現している。


― レビュアーやメディアはブラックメタルとしてとらえているけど、新作を聞く限りそこにとどまらないと思うが、”メタル”とかジャンルやカテゴリーをこえたアプローチをしている?

 それはブラックメタルだとしか言えない。ファンシーな飾りつけなど要らない。ブラックメタルは我々が常にそうしたいと思っているそのものであり、そこからスタイルを壊そうなんて思ったことがない。このスタイル自体は変えていくにはあまりに良質で活気のあるものなのだよ。つまりブラックメタルである、というものは軛ではなく、そのスタイルのままに多くの”新しい発見”ができるということさ。あなたが言っているブラックメタルというスタイルは狭義な定義だってことだね。



■ まとめ

 今回はポーランドのブラックメタルシーンに注目して、なぜポーランドにおいてブラックメタルが隆盛になったかの要因が、その特異な国の成り立ちとそれをめぐる宗教、民族問題に関連していることが解った。その中で、スカンディナヴィアからの2nd-waveの到来とともに"The Temple of Fullmoon"というNS志向のサークルが形成されたが、同時に宗教/民族という観点において特異な環境であるポーランドにおいては、それが主流に成りきることなく、各々ペイガニズムや個人主義への台頭を促すことになった。その推移は比較的緩やかに動いたため、NSBMからの脱却がなされた後についても、NSBMとして見做されていたバンドも多かったようである。

 その一方で"The Temple of Fullmoon"の活動は政治的な観点だけでなく、「トゥルーかどうか」という観点でもその指標として用いられ、その結果として国外に情報が出ていかなかったことで、ほとんどのバンドの世界的な認知度が上がらない状態にあった。それによってカルト性も上がったようではあるが、インターネットによる情報収集が一般的になった近年では様々なバンドの情報を収集することもできるようになり、またマテリアルとして再発盤を手に入れることもできるようになった。それは恐らく、シーン自体は90年代初頭から活動してきた人物が未だに多くバンドを継続していたり、新しいバンドで活動しているということもあり、過去のマテリアルが再発されやすいということだと推測される。

 逆に言えば神秘的なポーリッシュブラックという”印象”はいまでも引き摺っているというところであろうが、一方でそのような「古き良き」ポーリッシュブラックを聞いて育った新世代に当たるバンドも出てきており、それらに言えることは元々のモチベーションだったカトリックに対するカウンターカルチャーという枠組みを超えたところに新しいポーリッシュブラックメタルシーンを築いており、その表現方法についても深化を遂げ、かつ多様性が生まれてきており、今後においてもブラックメタルシーンの重要な地域として注目していく必要がある。

Hail Polish Black Metal!!
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【column】 Polish Black Metal Scene - III 

【前回】 Polish Black Metal Scene - II

■ その他の90年代初頭のポーリッシュブラックシーン

 前回は"The Temple of Fullmoon"について紹介し、なぜポーランドのブラックメタルシーンにおいてNSBMが広まったか、などについて触れた。今回はまず、そのようなサークル外における90年代初頭のポーランドのブラックメタルシーンについて書くことにする。

 ポーランドでもっとも"有名"なブラックメタルバンドといえばBehemothなのは間違いない。1991年、Nergalが若干15歳のときに結成されたバンドで、この時点では完全にスカンディナビアンブラックメタルをやっている。作風としてはDissectionやMayhemに影響されたと公言しており、ティーンネイジャーであったが故の、やってみたい音楽と自分たちの演奏的力量の双方で落ち着いた領域だったと語っている。そのことからも解る通り、直接"Temple of Fullmoon"に影響されていない。後に演奏的力量の向上と共にサウンドのデスメタル化してきたと言われていたが、後年、彼はインタビューでこう答えている。

with Nergal (Behemoth)

―あなたはブラックメタルとしてBehemothを始めたけれども、"SATANICA"からはデスメタルになったが?

 確かに初期にやっていたような内容からはかけ離れてきた。当時やっていた曲の音楽的な難易度は"簡単"だ。今はもっとへヴィなリフ、グルーブを重んじて曲作りをしている。なぜなら単純にギターテクニックが上がったからだ。できることが増えて表現が変わるのは当然なことだし、今の自分の音楽に誇りを持っている。俺たちは今でもたまに1994年当時に作った曲をプレイするし、今のも当然プレイする。どちらも同じバンドだ。俺にとってはどちらもブラックメタルスピリットなのさ。

 私がBehemothを結成したのは15のときだ。俺はその頃はひたすら好きな音楽に没頭していただけさ。そして俺は成長した。つまりあのときの俺はそこにいたし、今の俺はここにいる、ということさ。”ジキルとハイド”ではないのさ。俺たちがまだいわゆるブラックメタルだった頃から考えるとデスメタルアプローチを多く混入してある。だがデスメタルバンドではない。

 なぜならば俺たちはペイガンバンドなんだ。人々はペイガンという単語の意味を勘違いしていると思う。我々は以前から自分たちの祖先たちについてよくテーマにしている。俺たちのペイガンはいわゆるスラヴァニックセンスだ。一方で今日のペイガニズムはグローバルセンスだ。例えばエジプト、古代ローマにも各々のペイガニズムというものがある。だから俺たちはそれらをミックスさせてBehemothにフィットさせているのさ。

―あなたはなぜペイガニズムについてテーマにするのですか?

 それは際限がなく、教義もない。ルールや命令もなければ宗教でもその類でもない。自然に根ざした自由だ。そういうものに強い関心を持っている。


 また、他に90年代初頭においてポーランドで有名なバンドで言えば、Holy Death(1989-)、Christ Agony(1990-)、Xantotol(1991-)、そしてBesatt(1991-)あたりだろう。ここでは特に私が好きなBesattのインタビューを取り上げてみたい。

with Beldaroh (Besatt)

―ほとんどのリスナーは歌詞に注意を払わないんだが、その手のリスナーについて思うところはある?

 我々のメッセージは自分たちにとってとても重要なものだ。だからリスナーに理解してほしいし、その考え方をサポートしてほしいと思っている。しかし自分たちは常にリリースごとにベストを尽くしているわけで、そのようなリスナーから賛美を受けることもうれしく思っている。

―その歌詞についてだが、題材は?

 自分自身の考えや、サタンとコネクトされるデーモノロギー(著者注:神ではない超自然存在を認める主義)についてだ。それからキリスト教主義の全否定だよ。私はデビルというものを信じてはいない。単に自分自身を信じているし、それが私にパワーを与える。

―キリスト教の破壊をブラックメタルバンドが行うべきだと考えていますか?もしくはそういうこと抜きに活動すべきですか?

 キリスト教主義は我々の社会にあまりにディープに組み込まれてしまった。我々の"攻撃"の一つ一つは効果的ではない。敵ができるほど彼らは深く信じるからだ。

―あなたのブラックメタルシーンの中枢とは?ポーランド、ウクライナ?

 ポーリッシュシーンはとても強い。Arkona、Thunderbolt、Moontower、Holy Death、Black Altar、Infernal War、Gravelandだ。90年代においてポーリッシュアンダーグラウンドではいがみ合いによるバンド界の諍いが絶えなかった。だがそのシチュエーションはここ数年で終わり、新たにシーンが作り直された。もちろんウクライナは近年多くのすばらしいバンドが出てきているね。もしかするとそれは正しいかもしれない。なぜなら我々はまだコマーシャリズムに関して西欧シーンと比較するとフリーだからだ。コマーシャルバンドには幻滅させられるよ。


 今回あげた二つのバンドマンのインタビューはいずれも90年代初頭から活動をしており、かつ"The Temple of Fullmoon"の影響の外にいて、かつインタビュー自体は2000年代に入ってからのものである。インタビュー内容自体は一部のみ取りあげたわけだが、どちらのバンドにしても明確な信念を持ちつつ、かつ落ち付きのある回答が見られる。そして両バンドともに現在もなお第一線で活動しているというのも面白い。


■ 90年代後半以降のポーリッシュブラックメタル

 90年代後半になると"諍い"の絶えなかったポーリッシュブラックシーンも落ち着き始めた。一方でプロモーションのやり方にも変化が出始め、バンドの内向きの活動が目立つようになる。すなわち自己レーベルでのリリースなどである。そのためポーランドのブラックメタルは国内での交流が盛んになる一方で、BehemothやGravelandといったメジャーなバンドは除き、世界的な注目はむしろ下がっていったようだ。ポーランドのブラックメタルシーンは諸外国と比べても遜色ないレベルのバンドが多いのに、そこまでメジャーで無い理由というのはこのプロモーションによるところが大きいようだ。近年、再評価されて再発など相次いでいるのも頷ける話である。

 ちなみにその交流としては様々なバンドのメンバーが別のプロジェクトを立ち上げていくような流れで、例えばArkona(1993-)はポーランドの初期ブラックであるPandemoniumのメンバーによるものであるし、Gontyna Kry(1993-)のメンバーはKataxu(1994-)やAetheres(1997-)を始めたり、さらにChrist AgonyのメンバーがBlasphemy Rites(1997-)をやったりしている。

 また一つの方向性としてはブルータルなブラックメタルが一つの流行になった。これは一つにはBehemothだけでなく、Vader、Decapitatedといったブルータルデスメタルの世界的成功があると思われるが、主に前述したThunderboltInfernal Warといったバンドがブルータルブラックスタイルを示した。特に前者のバンドは元々はメロウな要素を持つペイガンブラックメタルをやっていたものだから、彼ら自身の音楽趣向と、ポーランドのメタル情勢の双方が共鳴して、スタイルの変更に至ったと思われる。

 The Temple of FullmoonのメンバーはThor's Hammer、Ohtar、Selbstmordといったバンドを組み、完全にNS思想のバンドをやっていた。このあたりはむしろNSBMコラムですでに述べた話になるので割愛するし、もう一つはInfernum関連のバンドが二つ出来た話なども割愛する。他に人脈筋ではDark Furyもここら辺に入ってくるし、先述したArkonaもここのカテゴリーにも一部入っており、この辺りの絡み、つまり1st-wave世代と2nd-wave世代の完全なコラボが実現したあたりで、"諍い"が完全な終焉を迎えたと言えるのではなかろうか。

 一方でブラックメタルの音楽性にフォーカスを合わせたようなバンドも出てきている。例えばBlack Altar(1996-)、Crionics(1997-)などである。彼らのインタビューからはキリスト教の否定や破壊、自己哲学といった主張はあまり見えてこず、むしろブラックメタルを聴いて育った者の音楽的な継承のように感じる。

■ 終わりに

 かなり駆け足ではあるが90年代初頭から終わりまでのポーリッシュブラックメタルをバンドを中心に振り替えった。残念ながら国内のいざこざが絶えない時期があったこと、そしてもう一つはそういうことを経て自己リリースなどによる国外ディストロやジンへのプロモーションの減少などによってリアルタイムでの情報が欠けているということもあり、あまり具体的な話はできなかったが、それもまたポーリッシュブラックを彩る一つの出来事であろう。

 次回はいよいよ最終回ということで00年代から現在に至るまでのポーリッシュブラックの"今"を見ていきたい。

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【前回】 Polish Black Metal Scene - I

■ The Temple of Fullmoon

 ブラックメタルのことに興味がある方であれば恐らく一度は耳にするであろう"The Temple of Fullmoon"とは、これはノルウェーの悪名名高き"Inner Circle"に触発されて、ポーランドで90年代初頭に結成されたサークルである。"Inner Circle"に触発されただけに、彼らは2nd-wave Black Metalであるノルウェイジャンブラックの流れを汲んだブラックメタルをやるようになり、そのサタニズム信奉においてはトレンディー音楽と目されたデスメタルを"偽物"だとして完全否定し、憎しみの対象とした。それが先述したPandemoniumなどのバンドである。

 "The Temple of Fullmoon"に属していたバンドの特徴としてはノルウェイジャンブラックの影響を大きく受けつつも、

 1. ケルト音楽由来のフォーキッシュなメロディが含まれる
 2. 政治的な主張(NS)とリンクしている
 3. バンド間でメンバーの重複が多い

といった特徴がみられ、それらのうち1.は現在のポーリッシュブラックメタルシーンの作品にも受け継がれている。

 また諸外国のブラックメタルマニアにおいてはノルウェイジャンブラックが90年代初頭のうちに没落していった中で、その情報のなさからその活動が神秘的に映ったようだ。そのため "the Next Norway" とも称されたという。実際、"Temple of Fullmoon" そのものに関する文献は昨今、ウェブ上でもあまり見ることができない。それはまずフランスのLLNで見られたような、彼ら自身が発行した身内向けのZineすらなかったためだと思われる。またポーランド人は英語が公用語ではないことも理由の一つであろう。サークルのメンバーとしては、記載がある限り、Mysteries、Inferum、Fullmoon、Graveland、Veles、Legionといったバンドだと思われる。

nsbm_pol.jpg
メンバー全員で撮影した写真。ハーケンクロイツを掲げている。


 また、当時はフランスのLLNのメンバーとも交流があったようだ(LLNのコラム参照)。面白いのはLLNの舞台もカトリック教会の力が強い地域だったことである。ただしこのポーランドという地域ではその影響力が段違いに大きかった。LLNは教会を焼かなかったのに対して、ポーランドではそれが起きたのはその点も加味する必要がある。このあたりはGravelandのDarkenがインタビューで答えている内容が興味深い。

with Darken (Graveland)

西欧とは違いポーランドは熱狂なカトリック国で、教会の政治的影響力は生活にまで及んでいる。ポーランドのブラックメタルアンダーグラウンドにおいて見られる強烈なキリスト教への嫌悪はそのカトリック社会への嫌気から来ている。教会は我々を捻じ曲げ、精神を犯してくる。それは家族を通じて辿りつくのだ。これはとても難しい問題だよ。

今日、ポーランドにおいても大きな都市においてはカトリック教会の役割は弱まっている。しかし小さい町にはまだ多くの若いブラックメタルミュージシャンたちとリスナーがいるよ。それは教会の役割がまだ大きいからだ。反キリスト教という考えはまだ生きているし、ポーランドでは根強いんだ。

若者が権力に抗うと言う行為は実に自然なことだが、ことポーランドにおいては家族から強く糾弾されることになる。家族は教会に強く依存しているのだからな。家族に多くのルールを強制される。例えば毎週日曜は教会に行くとかだ。それを守らなければ家族から精神的な迫害を受けることになるのさ。やがてその若者は圧力に屈し、教会にとって"善い"方向に引き戻されてしまう。これは私自身の経験から良く知っているのさ。家族は私を怨んだ。私はカトリック教会が欺瞞の塊であり、尊敬に足らないことをそこで理解したのだ。


 本コラムのPart.1ですでに書いた通り、ポーランドという国の成り立ちはカトリック信仰と密接であり、また歴史的過程を経て多民族国家でもある。そのような中でポーランドの若者はカトリック信仰への否定をしたときに、それに代わるアイデンティティがその混血が故に確固たるペイガニズムとして紡げなかったことが、このThe Temple of Fullmoonの存在理由に繋がっていると思われる。だからこそこのサークルの活動はアンチクライストとNS思想を根本とするのだ。これは以前のNSBMのコラムで書いた通り、ネオナチ活動においてそのすそ野を広げるためにスラブ系などの民族もアーリア民族に見做すようになってきたためであろう。

nsbm_pol2.jpg


 The Temple of Fullmoonの影響を受けて、サークル外においてもLord of Evil/War88、Gontyna Kry、Kataxu、Thunderboltといったバンドもシーンに登場してきた。いずれも先ほどのような特徴を持っており、ポーランドはNSBMの大きなシーンと目され始めた。トピックとしては元Gravelandのドラマー、CapricornusがドイツのNSBMバンドであるAbsurdのデモ"Thuringian Pagan Madness"をポーランドにてリリースしている。Absurdのメンバーが殺害した少年の墓をジャケットに使用し、ナチスのステイトメントをモチーフにして獄中で作成した曰くつきのデモであった。

 しかしながら、このようなサタニズムとNS思想のダブルスタンダードは歪を含有していた。やがてそれらの思想は徐々にかい離し始めた。

with Darken (Graveland)

初期のGravelandはサタニズムとペイガニズムを組み合わせていた。私はペイガニズムについて表現したかったから、区別するためにGravelandは一人でやることにしたのさ。

やっている音楽はNSBMではない。そう思われるのは私の持つ政治的姿勢によるものである。しかし私にとっては神秘主義と古代ペイガンがもっとも重要であり、政治的思想はプライオリティが低い。Gravelandはバンドであり、何より音楽であることが最も重要だ。NSBMとは違うと考えている。


with Paimon (Thunderbolt)

俺たちがポーリッシュブラックシーンに加わったころは、Graveland、Fullmoon、Infernum、Velesが唯一のシーンだった。93年のことだ。だからNSBMに同一視された。しかし98年頃にはそこから抜け出した。俺たちには全くそんなポリシーがないからだ。だって俺は個人主義を信奉しているし、宗教もポリシーもいらない。白人だろうが黒人だろうが何だろうが、すべての人間には同様に価値がない。

NSBMという存在理由はとても複雑な問題ではあるが、私個人としては数年前に人間や人種についての興味を失ったよ。時々、古代文明の書物に目を通したりはするけれどもね。俺の主張としては、ブラックメタルと社会問題を政治的にミックスしていることは間違えだったということさ。ポリシーっていうのは飼いならされた羊のように、人をコントロールするものだ。

もちろん俺はアンチクリスチャンだが、そのイデオロギーにキリスト教は一切関係がないし、スラヴィッシュとかそういう人種の類とも関係ない。俺を超える神などいないのさ。ブラックメタルにおけるペイガニズム、ヒーゼニズムの類はお間抜けだ。ブラックメタルは悪魔主義(個人主義のことだ)に限るべきだ。


 このようにしてThe Temple of Fullmoonは思想・信条の乖離から解散していったようであるが、中枢にいた人物たちは各々の信条を持ってバンドを各自続けていったし、その過程でThe Temple of FullmoonのChildrenと言えるバンドも現れてきた。


■ おわりに

 Part.1ではポーランドという国の説明とポーリッシュブラックメタルの成り立ちを紹介し、Part.2ではこの国のブラックメタルにおける中枢とも言うべき、The Temple of Fullmoonについて紹介することで、なぜこの国のブラックメタルにおいてサタニズムとNS思想がクロスオーバーしたかについて、インタビューにおけるコメントなどを挟みつつ説明した。本当はもっとこのサークル自体について、様々な記事を取り上げることも考えたが今回はあえて割愛した。

 次回はThe Temple of Fullmoon外の90年代初頭のポーリッシュブラックメタルシーンについて紹介し、続いて90年代後半から現在にかけてのポーリッシュブラックメタルシーンの状況、最近の活躍しているバンドについて紹介していく。

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