ウォー・ベスチャル・ブラックメタルとは何か - I 

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■ はじめに

 拙著「ウォー・ベスチャル・ブラックメタル・ガイドブック」が世に出て1ヶ月以上たち、当初の予想を上回る反響をいただきました(購入できるショップ)。またその関連のイベントとして以下の現場で執筆者として立つという誉れにも恵まれました。


 拙著を購入いただきました方、上記イベントに遊びに来ていただいた・対談動画を閲覧いただきました皆様には改めて御礼申し上げます。しかし同時に、特にトークイベントと対談において、ウォー・ベスチャル・ブラックメタルについての概略を伝えようとしたものの、時間の問題で言葉足らずになってしまった節があり、結局のところ「ウォー・ベスチャル・ブラックメタルとは何なのか?」というシンプルな質問に対する詳細な回答ができていなかったという無念さが残ったのも事実です。

 そこで本稿から「ウォー・ベスチャル・ブラックメタルとは何か」と題して拙著の補足に当たるコラムを連載することにしました。あくまで「補足」の意味合いが高いですが、本をお持ちでない方にも読んでいただける内容にいたしますし、是非このコラムを通じて本を手に取っていただければ幸いです。それでは連載終了までお付き合いのほどよろしくお願いいたします。



■ 「ウォー・ベスチャル・ブラックメタル」というジャンルはあるのか?

 この名称そのものは拙著における便宜上のタイトルだと思ってください。しかし海外では1980年代から1990年代初頭にかけて生まれたエクストリームメタルとしてのスタイルとしてWar MetalBestial Black Metalという二つのジャンル名で2000年代以降カテゴライズされるようになりました。そして両者はその志向性に親和性があること、音楽的ルーツを共有していること、更に現代においては両者から共に影響を受けたバンドが多いことなどから、現在においてはWar Metal a.k.a. Bestial Black MetalやWar/Bestial Black Metalなどと称されて同一視されることが一般的になりつつあります。

 2000年に設立されたネット上でレーティングに特化した音楽DBサイトであるRate Your Music (RYM)にてメタルのサブジャンルの一つとして当該ジャンルを紹介されていることは上記の説明をフォローするものです。BBS機能によるディスカッションを主にしたRedditWar (Bestial) Black Metalというテーマが2012年には挙がっていたようで、海外のメタルに関するフォーラムなどを通じて00年代を通じてそのような同一視による名称が形成されていったことが想像できます。一方でそれらのジャンルの創始者にあたるSARCOFAGO、BLASPHEMYは80年代に結成されたバンドで、当時こそそのような名称は使用されていません。そのようにジャンル名というものは後年称されるものも多いです。特にこのジャンルはアンダーグラウンドなものだったのでなおさらだと思われます。

 ちなみに後述しますが、War/Bestial Black Metalはその音楽性からBlack/Death Metalとして扱われることもあります。しかし一方でBlack/Death Metalはブラックメタルバンドがデスメタル的な手法を多く取り入れたものを指すこともあり(ポーランドのBehemothなど)、区別することを好む人もいるようです。そんなときに使われるのはGoat Metal(Last.fm)だったりMetal of Death(Last.fm)などだったりしますが、そのように呼称が様々あるのは音楽的に細分化が進んだというより、ブラックメタルとデスメタルのいずれにおいても傍流と見られていた中で自分たちのアイデンティティを主張した現れであるように感じます。拙著における様々なバンドへのインタビューの回答を見ていただくとそのような主張が垣間見れる回答も多かったです。そのため細かい呼称をいちいち覚える必要もないですが、そのような呼称を理解しておくとこのジャンルでのバンド発掘がしやすくなることは補足しておきます。

 それでは次回は実際にベスチャル・ブラックメタルとウォー・メタルについて個別に説明していきます。次回もよろしくお願いいたします。

⇒ 「ウォー・ベスチャル・ブラックメタルとは何か - II
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Re: War Black Worship - vol. 3 

前回 → Re: War Black Worship - vol. 2

■ 十章: Nuclear War Now!

blasphemy_live.jpg Yosuke Konishi氏はアメリカはカリフォルニアにて自身のブラッケンドノイズバンド、ErebusのデモリリースとしてレーベルNuclear War Now!を設立する。1999年のことである。この時点では決して現在のようなレーベル活動を目論んでいたわけではなく、単純に自身のデモリリース起因だったようだが、やがて自身の音楽活動の限界と他者の作品リリースに考えが達し、2001年のバンクーバーにおけるBlasphemyのライブをMDプレイヤーで録音したものを、バンド側に掛け合ってライブ音源としてリリースすることになる。これが公式リリースとして初のNuclear War Now!のレーベル活動となった。

 この2001年という年は例えばOsmose Prod.もAngelcorpse、Blasphemy、Sadistik Exekution、Mystifierといったバンドのマテリアルの再発をリリースしており、ヨーロッパでも何らかの機運が高まっている時期であったし、Blasphemyが一時期的にでも再結成によるライブ活動を行ったこと自体、その何らかの機運とリンクしていることは間違いない。

Kult_Razor.jpg もしくは恐らくこのブログの閲覧者ならよくご存じであろう日本のDeathrash Armageddonもまた初リリースとして2002年にフィリピンのKorihorの作品をリリースしている。この音源ジャケットはあのGoat SemenのErick Neyraがデザインしたことで有名であり、いかに世界中でこのような同時期のムーブメントが勃発したかお分かりいただけるであろう。もしくは第八、九章でそれぞれ述べたように東南アジアと南米にそのようなつながりがあったこともまたトレンドと無関係だった地域の"同志関係"がうかがえるのだ。

 恐らくこれは北欧を起点とした2nd wave BMにおいてその勢いに陰りがみられたこと、もしくはよく言われるジャンルのポピュラー化、コマーシャル化による本質の衰退に対してアンダーグラウンドに引き戻そうというムーブメントが局所局所で勃発し、1st wave BMの流れを汲むバンドマテリアルの再評価が進んだのではないかと考えられる。その中で最も存在感があった、さらに言えばマテリアルのチョイスにアンダーグラウンドかつカルトなセンスがあったのがYosuke Konishi氏であり、Nuclear War Now!だったのである。Blasphemyが彼にライブ音源のリリースを許可したという事実自体が非常に興味深いものなのだ。もしくはDeathrash Armageddonもそうだが、極めてレーベルオーナーの個人的な趣味を動機としたリリースや再発がこのジャンルの再興を促したことはまさにこのジャンルの性質を表していると言える。

blasphemy1.jpg その後、Nuclear War Now!による重要な再発音源を以下に並べる。
  • VON - Satanic Blood Angel (2002)
  • Sarcofago - I.N.R.I. (2004)
  • Impurity - The Lamb's Fury (2006)
  • Reencarnacion - 888 Metal (2006)
  • Blasphemy - Fallen Angel of Doom (2007, 2015)
  • Conqueror - War.Cult.Supremacy (2011)

 特にRoss Bay Cult関連の再発は共同で行っており、Blasphemyのライブ音源リリースの後もアンダーグラウンドにおける交友関係は長く続いている。


■ 十一章: 志を受け継ぐ者たち

 Nuclear War Now!を中心とした過去音源のリリース群による再評価に呼応するがごとく、その志を受け継ぐかのように新しいバンドが出現する。それらをサポートした重要なレーベルはもちろんNuclear War Now!Deathrash ArmageddonOsmose Productionsの他に、ドイツのIron Bonehead ProductionsDunkelheit Produktionen、アイルランドのInvictus Productions、アメリカのHell Headbangers RecordsOld Cemetery RecordsDark Descent RecordsSatanic Skinhead Propagandaが候補として挙げられるだろう。

 そしてそれらrのレーベルがリリースに関与した"志を引き継いだバンドは以下の通りである
 
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    ヨーロッパ
  • Sadomator (ex-Sadogoat) (1998-)
  • Embrace of Thorns (1999-)
  • Anal Blasphemy (2002-)
  • Blasphemophagher (2002-2012)
  • Bestial Raids (2003-)
  • Proclamation (2003-2012?)
  • Teitanblood (2003-)
  • Pseudogod (2004-)
  • Wargoat (2006-)
  • Demonomancy (2008-)
  • Goatblood (2011-)
  • Witchcraft (2013-)

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    北米
  • Ouroboros (1997-2010)
  • Axis Of Advance (1998-2007)
  • Black Witchery (1999-)
  • Revenge (2000-)
  • Nyogthaeblisz (2002-)
  • Martyrvore (2002-)
  • Necroholocaust (2003-)
  • Amputator (2005-)
  • Nuclearhammer (2005-)
  • Antediluvian (2006-)
  • Nocturnal Blood (2008-)
  • Weregoat (2009-)
  • Abysmal Lord (2013-)

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    南米
  • Seges Findere (1999-)
  • Goat Semen (2000-)
  • Nihil Domination (2003-2013?)
  • Hades Archer (2005-)
  • Wrathprayer (2006-)
  • Bloody Vengeance (2009-)

    オセアニア
  • Diocletian (2004-2015)
  • Witchrist (2006-)
  • Heresiarch (2008-)
 
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    アジア
  • Nechbeyth (2001-)
  • Zygoatsis (2003-)
  • Damaar (2004-2006)
  • Infernal Execrator (2005-)
  • Battlestorm (2007-)
  • Nocturnal Damnation (2010-)
  • Genocide Shrines (2011-)
  • Blasphmachine (2012-)


 これらのバンドを並べたのは一つは各地域から新しいバンドが出てきているということ、そして特に前述した2002年前後に多く結成されていることだ。この事実は過去のマテリアルの再発が促したシーンの活性化を表していると言えよう。なお、上記バンドリストは特定レーベルが関わったバンドという限定に基づいており、このジャンルの重要なバンドを全て網羅的に示しているものではない。しかしかなりの有名なバンドを網羅していることは確かである。

 また更に00年代後半から現在まで、アクティブなバンドを俯瞰的に見てみると、実はvol.1で触れた各バンドの要素が混在化されていったようなスタイルのバンドが増えていることがわかる。決してトレンドに振り回されず、自己のスタイルに進化ではなく深化していった結果としての、近いベクトルを持つ各スタイルの共鳴が図られているのである。例えばニュージーランドのDiocletianでいえば、オセアニアブラックメタルとしてのBestial Warlustのスタイルをベースとしつつ、Incantationスタイルを合わせたものになっているし、フィリピン(現在はコスタリカ)のDeiphagoはBlasphemyのスタイルをベースとしながら、さらに南米ベスチャルスタイルを融合というより掛け合わせたような感じでとにかくダーティーで破壊的なスタイルを確立している。

■ 十ニ章: 最後に

 最も1st wave BMの直系だといえるスタイルでありながら、シーンのオーバーグラウンド化を嫌って地下に潜った結果、ブラックメタルのサブジャンルとして認識されてしまったWar/Bestial Black Metalであったが、その後、再評価が進むような各"個人"の動きがそのアンダーグラウンド性を保ちながら世界中に広まり、重要な過去音源の再発のみにとどまらず、新たなバンドの始動や、もしくはArchgoatやBeheritのような重要バンドの再結成に至った。

 War (Black) MetalのパイオニアであるBlasphemyは、その重要な過去音源の再発という起爆材においてもやはりNWN!の行動と共に共鳴しており、過去から現在に至るまでこのジャンルにおいて最も重要なバンドであるということは言うまでもない。

 最後にそのBlasphemyの発言から引用してこのコラムを閉める。


 ―Would you say Blasphemy is Black Metal, Black/Death or something else?
 Blasphemy: Only Black Metal.
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