Goat Worship - I 

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Goat Worship!!



■ はじめに

be451280.jpg 今回のコラムはメタル(特にブラック)におけるバンド名、タイトル、もしくはジャケットによく用いられている "Goat" にフィーチャーしたものである。個人的には「Goatのつくバンドにハズレなし!」をモットーに、様々なアルバムのジャケ買いをしてきた。はっきり言って失敗したこともあったが、それも含めて楽しんできたし、今までの経験を振り返るとやはり "Goat black metal" というカテゴリーは存在し、"Goat Worship"という旗のもとに、何らかの共通点を持ったサウンドを備えているバンドが多い印象である。

 一方で「悪魔の象徴=山羊」は恐らくメタルを聞く人なら共通認識だと思うが、ではなぜそのようなモチーフとして用いられてきたのか曖昧なところもある人も多いと思う。そのため今回は"Goat"がなぜ悪魔的モチーフに用いられているのか、そしてそのようなモチーフを積極的に取り入れたバンドについて紹介していきたいと思う。


■ 山羊の歴史と古代神話

 山羊は家畜の歴史では犬に次ぐ。というのも耐環境性に非常に優れているからであり、また肉、乳、毛などすべて利用価値がある。その結果として山岳部や乾燥地帯などの厳しい自然環境下では特に貴重な家畜として用いられてきたし、紀元前のような"大昔"の時代においては特にその価値は高かったと思われる。逆に言えば歴史とともに遊牧から農耕に主軸が置かれるとともに、家畜としての価値は牛や馬などにスライドしていったのだが。

 一方で神話―特にギリシア神話もまたそのような紀元前に口承形式にて伝え広まったとされる。文章において体系的にまとめられるまでは民間伝承であり、そこには自然への畏怖、自然哲学の擬人化などが含まれていた。そのため自然の象徴の一つでもあった動物もモチーフにしたのも当然といえるし、さらに動物と人間が混在した半獣というイメージは超自然的なアニミズム信仰であったし、その中で動物の毛皮を着用しての儀式などもシャーマン信仰として存在していたようである。

goat1.jpg そこで生まれたのがパーンという神である(写真右)。羊飼いと羊の群れを監視する半獣の姿をした神だ。神話上においても起源は諸説あるが、いずれにしても山羊による農耕の象徴として民間で崇められてきたアニミズム信仰の具現化が大元だと思われる。さらに言えば山羊はしばしば性的なモチーフとしても用いられてきた。日本にも一部、古くからの文化として男性器を崇める神社があるなど、農耕文化と性的モチーフは切っても切れない関係にあるのは知っての通りだが、山羊にもそのようなイメージが古来からあったとされる。実際、後にキリスト教によってこのような民間伝承によるペイガニズムの迫害はそのような性的イメージを利用して悪魔的な印象を深めている。

 一方でエジプト神話におけるアメン神は牡羊の姿をしており、民間伝承をベースとして同じような創造要因だったと考えることができるし、さらに言えば後々の古代神の悪魔化においてアモンという名の語源になったことも付け加えておく。


■ 異教徒(ペイガン)の迫害と古代神の悪魔化

 紀元後、つまりイエス・キリストが生誕した後のことだが、彼はユダヤ教の中に新たな宗派を作るに至り、当時ローマ帝国においては多神教国家であったため当時、新興宗教としての宗教家であったイエス・キリストは迫害され、十字架に磔にされたわけである。その後、彼の弟子を中心に宗教活動は継続していくものの、ユダヤ教との決定的な理念の違いが弾圧を生み、やがてキリスト教として分離していくようになった。

 その後もキリスト教はローマ帝国からの迫害・弾圧を受け続けてきたが、それでも教義は広がり続けたことでついにローマ帝国より国教として認定され、さらにその約10年後には何と古代神などの多神教の崇拝が禁止をされるに至ったのである。というのも、どうやらこのころ、ローマ帝国は国内の求心力を失いつつあり、キリスト教勢力の影響を利用することが目的だったようだ。

 そのようにしてキリスト教は権力化していき、やがて他文化をキリスト教化していくに至った。それは「消去」というより「上書き保存」という方が適切な表現であっただろう。古代神信仰が盛んだった地域において教会を設立するときは、その古代神信仰の建造物を利用したという。たとえばエジプト神話のイシス像をそのまま聖母マリア像として流用したなんていうこともあったようだ。

 ここは想像だが、キリスト教にとって有用なイメージは有用に利用し、そうでないものは異教のシンボルとして弾圧の道具とするようになっていったのではなかろうか。つまりパン神のような半獣の様相は異教のシンボルとして利用しやすかった、そして文化の発展によって山羊という家畜の価値が相対的に下がった、さらに性の象徴:肉欲としての悪のイメージなどがやがて山羊を悪魔的象徴にさせてしまったのだと考えられる。

goat2.png そこで創造されたのがバフォメットである。画像に示すものはエリファス・レヴィが描いた世界で最も有名なバフォメットの画像であり、これは19世紀のものなわけだが、最初にバフォメットは11世紀あたりにラテン語文献にて登場したとされている。この時点ではキリスト教にとっての異教の神を指していた言葉だとされている。その後、徐々に悪魔的なイメージをすえつけられ、後に有名なテンプル騎士団が崇拝していたと言いがかりをつけられたのもこのバフォメット像だとされる。これは当時のフランス王朝が貧困にあえでいたときに、テンプル騎士団の潤沢な資金源をスポイルするために壊滅に追いやるための方策であったことが現在の主論になっている。このときの拷問によるバフォメット像の偶像崇拝の是非については、実際様々な発言があったとされ、拷問に耐え切れずに様々な悪魔的イメージを据え付けるに至った。

 このあたりでバフォメットに付きまとう悪魔的イメージを決定づけられたとされ、たとえば姦淫に関しては先ほどのパン神における記載の通りであるが、さらに男色(Sodomy)の内容も付け加えるため、両性具有のイメージが取り付けられている。

 その後、異端審問は主に民間による私刑によって広まりながら、そのイメージを拡散させていったとされる。たとえば魔女とその宴であるサバトもまたそのイメージの流布によるものである。異端審問官や学者が流布させたとみる向きもあるが、最近の学説では国家による異端審問は従来言われているほど苛烈ではなかったとされており、むしろ民間での恐怖、不遇、など様々なネガティブイメージがそうさせていったのではないかと思われる。その中でも魔女が山羊の背中に乗って飛来しているイメージや、バフォメットがサバトに参加して参加者と性交しているイメージも付いたとされている。

 以上が山羊の悪魔的象徴化の経緯である(一部、推論が含まれる)。そしてやがてキリスト教的解釈による悪魔を象徴とすることで個人主義哲学をうたったのがサタニズムというわけである。


■ ブラックメタルにおける山羊モチーフの始まり

 さて、ようやくここでブラックメタルにおける山羊モチーフの話に移るわけだが、まず先に書いておくと筆者は悪魔思想的(ユーモア含む)な音楽全般について詳しいわけではなく、特にへヴィメタル以前のものについては全く疎いし、恐らくそういったものは昔からあったのではないかと推測している。もしそのあたりに詳しい方がいたらぜひTwitterやコメント欄などで教えてもらいたいし、さらに言えば寄稿してくれたら存外な喜びである。

 閑話休題、ことブラックメタルにおいて山羊モチーフとして思い浮かべるのは、まずは何はともあれVenomであろう。有名な1stや2ndアルバムはもちろんのことであるが、あえて取り上げるのは1stデモテープのジャケットである。

venom_demo.jpg


 五芒星(ペンタグラム)をさかさまにしたものにバフォメットを重ね合わせたようなイメージになっている。元々オカルト分野においてペンタグラムはオカルト的に古来から用いられてきた記号であるが、逆向きにして悪魔的なイメージを持たせたのは20世紀に入ってから悪魔主義者によるものだという。つまり、Venomはサタニズムのイメージで用いていることになる。もっとも彼らに「その気」はなく、イメージ戦略のようなものだったようだ。

Bathory_album.jpg 一方で、それを本気で解釈したのがBathoryだといえる。1stアルバムは何度見ても惚れ惚れするジャケットだ。ただ単に山羊の絵(というよりもバフォメットだろうが)がかいてあるだけで、こんなにもイーヴィルな雰囲気が出ている。クォーソン氏が「Venomなんて聞いたことがない」といえばそれを信じるのが信者ってもんだろう。でもバフォメットの顔だけジャケにしたのはまあパクりといわれてもしょうがな…、、、

 ともあれ、このアルバムジャケットは1981年に発行されたErica Jongなる作家のWitchesという書籍に使われたもので、Joseph Smith,という人物が描いたものだという。クォーソン氏は初めは白ではなく金色の配色をしようとしたが、プリントコストがかかるために黄色で配色したが、後により悪魔的印象を持たすために白黒に切り替えた。初期リリースのみ、黄色のGoat仕様になっているため、今でも"The Yellow Goat"と呼ばれてコレクターズアイテムになっている。


■ まとめ

 まず山羊がなぜ民間で重宝され、そして神話に登場するに至ったか、そしてキリスト教の勃興から権力化によって、その神話が異端のモチーフになっていったことに説明し、さらにそのような異端モチーフはやがて迫害の象徴として悪魔化していくとともに、近代~現代においては悪魔主義や反キリスト教主義の象徴になったことを説明した。

 そのような中で悪魔主義をイメージ戦略として用いたVenom、そしてそれを真に受けたBathoryというブラックメタルのルーツである二大巨頭が各々ジャケットに山羊を使用した影響はその後のブラックメタルに対して間違いなく大きく、その後のブラックメタルにおいても重要なモチーフとなっていった。

 長くなったので今回はここまでにして次回は具体的に90年代~現在に至るまでの"Goat Black Metal"について紐解いていくことにしよう。

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Under The Sign Of The D-Beat Mark : Dishammer (2010) 

スペインのブラッケンドD-beatクラストバンド、DishammerのEP盤を紹介。
アメリカのParasitic RecordsからLPで、日本のArmageddonからCDでリリースされた。

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アルバムタイトルが完全にBathoryのそれであざとさすら感じるほど。
以前紹介した1stアルバムと同時期に収録されていたとのことで、
作風もほとんど同じようになっていて特別Bathory成分が多めでもない。

当時はブラックメタル界隈でも相当話題沸騰で日本盤が出ちゃうほどだったが、
一つにはクラストパンクとブラックメタルの融合という方法論を、
メタルサイドにうまく表現するバンド名とアルバムタイトルだったと考えることができよう。
むしろクラストサイドには目新しさのない内容だったのではあるまいか?

やはりモータークラスティーなサウンドは単純にノレるし悪いアルバムではないが、
今考えるとこのバンドは一芸的なものであったと振り返ることができる。
既に2011年に解散しておりメンバーの一人は違うバンドでメタルクラストをやっている。

あ、いい忘れるところだったが、
相変わらず良いおっぱいのネ~ちゃんを起用していてグッド。

Encyclopaedia Metallum - Dishammer
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Under The Sign Of The Black Mark : Bathory (1987) 

ブラックメタルの始祖、Bathoryの3rdアルバムを紹介。
アメリカのNew Renaissance RecordsとイギリスのUnder One Flagで共同リリースされた。


Under the Sign of the Black MarkUnder the Sign of the Black Mark
(2010/09/14)
Bathory

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個人的には4thアルバムが初めてBathoryを体験したものだったので
思い入れ含めて贔屓度は4thの方が上なのだが、
このアルバムがブラックメタルの明確な定義を形成したことは間違いない。

1st、2ndと形を変えながらもこのアルバムにおいては
その線形変化を飛び越すような異形な代物で、
サウンドプロダクションなど鑑みても、
当人ですら予測できず生み出されたのではあるまいか。
(現にクオーソンはこの作品はあまり気に入ってなかったみたいな話もある)

ダーティーでありながら低俗でない空気感はお見事というしかない。
ルーツ云々を前に一つの完成形として、
今でも現在進行形で聞くことができる稀有な作品。

Encyclopaedia Metallum - Bathory
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Armageddon Cobra : Ammit (2009) 

チリのブラッケンスラッシュメタルバンド、Ammitの5thアルバムを紹介。
チリのTyrannus Recordsよりlim.1000でリリースされた。

Ammit5.jpg

1991年から活動する古参ブラッケンスラッシュメタルバンド。
個人的にはノータッチだったが海外ディストロでまとめ買いした時に何気なく購入。
実はこのチリのレーベルから引っ張ってくるのはかなり大変だとかで運が良かった。

内容は1stのあたりのBathoryVenomを合わせたような音で、
いかがわしさ、邪悪さ、そしてノリの良さが同居した、
ブラッケンスラッシュとしては理想的なものに仕上がっている。

またアルバムを通して楽曲のヴァリエーションが豊富で、
なるほどベテランブラッケンスラッシャーだけあると納得できる一枚。
なかなかにオススメなアルバム!

Encyclopaedia Metallum - Ammit
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Hellish Wrath : War Hammer Command (2008) 

ブラジルのブラックメタルバンド、War Hammer Commandの1stアルバムを紹介。
アメリカのOld Cemetery Recordsよりlim.1000でリリースされた。

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このバンド名で、ブラジル産で、しかもOld Cementeryリリースとなれば、
どう考えても強烈なベスチャルウォーブラックでしょ!と思って購入したら、
思いのほか北欧ブラックリスペクト作品だったので壮絶にずっこけた。
(5曲目にはBathoryのカヴァーが収録されていたり)

しかし6曲目以降はガラリと雰囲気を変えて、
そのような北欧ブラックこそベースに置きつつも、
南米ロウブラックの要素を取り込んだ治安の悪い音に変化している。
SEも無駄に銃弾や爆発音を混ぜていたりとても微笑ましい。

正直後半のような音が聞きたかっただけに、
前半の真っ当な北欧ブラックパートがとても邪魔に感じる作品だ。

Encyclopaedia Metallum - War Hammer Command
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Supreme Black Force Of German Steel : Moonblood (2004) 

ドイツのカルトブラックメタルバンド、Moonbloodのブートレグアルバムを紹介。
"Not On Label"で誰がやったか不明なブート。(ブート嫌いの人には陳謝)

moonblood

前身バンド含めて1990~2000年に活動していたカルトブラックメタルバンドで、
リリースは全てカセットかLP、しかも少数リリースと、
カルト性を後生大事に保って解散したため世の中にブートレグが出回っている。
そのブートの中でも今回の紹介するものが一番よく出回っており、
これならDiscogsで500円ちょいで出ている。

内容としてはDarkthrone直系の直球リフとコールドリフを織り交ぜたものだが、
あれよりも意図的にアンダーグラウンド臭漂わせている音の使い回しが面白い。
それなのに中期Bathoryのようなエピック/ヴァイキングな勇壮さも感じさせ、
とても面白くも、危うさも感じるギリギリのバランスがカルトっぽい。

多分、これ以上少しでもクサくしてもカルトっぽさがないし、
これ以上にシビアにしても逆に普通のブラックになりかねないという辺り、
このバランス感覚がこのバンドのカルトブラックとして優れている点ではあるまいか。

Encyclopaedia Metallum - Moonblood
(この音源はブートのためリストに記載ありません)
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【column】 NSBMとは一体何か? - IV 

■ 前回

【column】 NSBMとは一体何か? - III
http://staymetal.blog8.fc2.com/blog-entry-550.html

■ 続き

 前回は、NSBMはAbsurdのような異端にして自由な表現を用いていたバンドをパイオニアとしながらも、音楽性としてはAbsurdタイプの他にも、様々なものがあることを語った。今回はコラムの本筋からは少し外れるが、ペイガニズムについて触れることにする。NSBMの歌詞テーマにもなる北欧神話などのペイガン世界を理解し、NSがどう繋がっていくか理解することで、ペイガンブラックとNSBMの曖昧な境界線を少しでも明確にすることが目的である。
その他、ブラックメタルのバックグラウンドにも大きな関係があるのでご容赦の上、ご一読願いたい。

■ ゲルマン人と北欧神話

 現代の感覚では「ゲルマン人=ドイツ」という感覚だが、ゲルマン人とは北ドイツからスカンジナビア南部に至るまで広範に所在した諸部族のことを指す。そのため、実のところ北欧民族として「ゲルマン民族」というような民族共同体は存在しない。しかし「アーリアン学説」においてゲルマン人こそが優等性を保有するとし、アーリア人(高貴な者)と名付けられた。それを利用したナチスドイツによって人種政策として「ゲルマン民族」という概念が創出された。

odin.jpg 古代、ゲルマン人は各地方に点在していたが、やがて気候変動や他民族の圧迫などで移動し始め、他民族との同化などが行われていき、現在のヨーロッパ諸国の形成が行われていった。ドイツもその一つである。それを「ゲルマン人の大移動」という。一方で、大移動に参加せず北欧に残ったゲルマン人はノルマン人と呼ばれた。彼らは中世時代にはスカンジナビア半島にてヴァイキングと呼ばれるようになる。ヴァイキングとは海賊のことではなく、彼らが地勢的観点から航海術が巧みになったためにしばしば武装船団を形成しており、それが現在のイメージに繋がっている。つまりヴァイキングもルーツはゲルマン人ということになる。

 一方で、移動したゲルマン人は各地域の民族と同化し、やがてキリスト教化していくことになるのだが、その前に信仰の対象としていたのが「北欧神話」である。勿論、移動しなかったヴァイキングも北欧神話を信仰の対称にしていた。各地に散ったゲルマン人が「北欧神話」のうちオーディンを信仰の最も重き対象にしたのに対して、ノルマン人(後のヴァイキング)はトールを信仰の対象にしたのは面白い。この辺りに地勢的観点における神話への見る目の違いが現れている。

■ ペイガニズムとは

ペイガン(pagan)とはラテン語の「田舎の」を意味する単語を語源としている。キリスト教化は都会で浸透したため、保守的な田舎の人々には浸透せず、それはしばしば非信仰者としてペイガンと形容された。そのため、当初は侮蔑語として用いられる時代が長く続いたが、現在では(ネオ)ペイガニズムとしてキリスト教以前の自然宗教ないし自然を基盤に持つ精神世界を取り戻す運動の総称になった。これには当然、北欧神話も信仰の対象に含まれている。

Pagan_Symbols_Brushes_5_0_by_DeviantNep.jpg そのため、ナチズムなどに見られる民族優越性に前提としたナショナリズムとは、自分たちのルーツに誇りを持つという点で親和性を持ちつつも、レイシズム的思想は含まれていない。言わば、自分たちのルーツを多文化主義から守っていくという動きであり、他のルーツを持つ者に対する「優越性」を見出すようなものではないということである。

 また、ペイガニズムの類語として、ヒーゼニズムという言葉も存在する。ヒーゼン(heathen)とは「異教の」を意味する単語で、ペイガンとほぼ同じ使われ方をしてきた。これらの現在での使われ方の違いは主に地域によるようだが、基本的には広義のペイガンにヒーゼンも含まれるようだ。ヒーゼンメタルというジャンルはほとんどペイガンメタルと同じものだと思ってよい。

■ ブラックメタルとペイガニズムの関係

 サタニズムとは悪魔崇拝を指しているのではなく、アンチゴッドであるサタンを象徴とした個人主義への回帰である。それには欧米人として当たり前である「神に仕える」という態度とは相反し、当然のごとくアンチキリストとなる。ブラックメタルの始祖とされるVenomはサタニズムについて本気で追求しておらず、あくまで過激な表現としての演出に過ぎなかったようである。

BATHORY hammerheart 一方でBathoryは本気で追求していた。そして1stアルバムでは直情的にキリスト教の欺瞞とサタニズムについて歌っている。しかしその後、アルバム毎に直接的な表現が少なくなる。3rdアルバムは音楽性で見ると後のノルウェイジャンブラックの雛形的傑作であるが、5曲目"Equimanthorn"を見てみると既にOdin(オーディン)という単語が出てきており、既にサタニズムからペイガニズムへの思考の推移が垣間見れるのである。恐らく当初持っていた個人主義にあたる哲学からキリスト教的思考の否定に入り、その後に自分の作品を通じて自分のルーツというものを考えながらサタニズムとは異なる思考体系であるペイガニズムへと移行としたと思われる。4th以降、更なる思考の変化は進み、5thアルバムでは勇壮かつ儚さなメロディをミドルテンポで紡ぐ音楽性も含めて完全にペイガンメタルへと変貌した。5thアルバムの2曲目"Valhalla"とは戦死者の魂(エインヘリャル)が集められているオーディンの館の名称である。すなわちBathoryのペイガニズムへの思考と音楽性のシフトにはズレがあるが、その後のペイガンブラックと呼ばれるものは音楽性も含めてBathoryの5thアルバムをルーツにしているように思われる。

enslaved1.jpg Enslavedはヴァイキングをテーマにした1stアルバムを1994年にリリース。この頃の彼らのサウンドはあくまでプリミティブブラックメタルの音楽性であり、Bathoryの3rd~4thあたりの作風に相当する。彼らは初期ヴァイキングメタルにカテゴライズされているが、音楽性としてはブラックメタルのカテゴリーにあった。この辺りにジャンルが思想と音楽性の両立で区分けされていく中で、その過渡期にあったことが伺えよう。現在ではヴァイキングメタルといえば勇壮かつ土着的メロディに大仰な展開を含めたものをイメージしがちであり、現在のカテゴリーとしてはこの頃のEnslavedは思考体系含めて現在で言うペイガンブラックに相当する。

 ペイガンメタルとカテゴライズされるものはネオペイガニズムをエッセンスとして取り入れて表現したものであるが、時に古来からの楽器などを利用したり民族音楽を取り入れた音楽性のみにおいてのペイガンメタルも存在する。それらはしばしばフォークメタルとも形容される。また、ペイガンブラックメタルはそれをブラックメタル的に表現しているものであるが、それにはしばしば民族優越性の論旨を挿入するバンドもいるためにNSBMとの境界が不鮮明な場合がある。基本的にそのようなバンドはNSBMに該当されることが多いと思われる。

graveland.jpg また、ペイガニズムとNSBMの境界を取り上げる上で外せないバンドはやはりGravelandであろう。一番有名な音源はデモ音源のIn the Glare of Burning Churchesだが、これはインナーサークルに呼応するように作成されたサタニックなテーマのプリミティブブラックメタルである。メンバーのRob Darkenはペイガニズムを重んじた思想の持ち主であるが、当時のメンバーであるKarcharothやCapricornusはサタニズムやNS思想を持っていたためこと、そしてRob Darken自身も自分たちのルーツであり血を重要視すると言う意味で一時期は極右思想にも寄り添ったようだが、現在では完全に一線引いている。彼がよく中世の甲冑を纏っているのも、ペイガニズム思想からくるものだ。彼はNSBMシーンについてかなり現実的な意見を寄せており、頷ける内容も多い(リンク先の記事はRobの核心をついた意見がみられるので、みたことがない人はぜひ見てほしい。というかこれを観れば本稿はほとんど見る価値がないかもしれない)。一方で、RACバンドとスプリットをリリースするなど極右思想との一定の関係は保っているようだ。

■ おわりに

 今回のコラムではペイガニズムの源流であるゲルマン人と北欧神話の関係から紹介し、ペイガニズムの定義について述べ、そこからブラックメタルとペイガニズムとの関係について展開した。ここから解ることはブラックメタルバンドにおけるペイガニズムへの志向は、個人主義とルーツへの回帰に大きな結びつきがあったからであり、また思想、音楽性ともにBathoryの影響が非常に大きかったことが解った。

 次回のコラムではNSBMの話題に戻し、抑えていくべき名盤などを触れていく。またペイガンブラックに関しても同様に紹介していくことにする。
タグ: column  Bathory  Enslaved  Graveland  NSBM 
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Unholy Thrash Metal : Return (2011) 

[2012秋のスラッシュ祭り!]

日本のスラッシュメタルバンド、Returnの1stアルバムを紹介。
Break the Connection Recordsよりリリースされた。

UNHOLY THRASH METALUNHOLY THRASH METAL
(2011/10/12)
RETURN

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まだ活動期間が短いながらもデモとライブでいきなりの好評を博しての、
プレブラックメタルなサタニックスラッシュメタル。

この時代にこの作風というのは逆に新しいと思わせる。
はっきり言ってテクニックが巧みなんてことはない。
しかし初期衝動に基づく強烈な表現方法には感服せざるを得ない。

明確に初期Bathoryの影響を感じつつもそれにとどまることはなく、
80年代にあったデス/ブラック/スラッシュ/ハードコアの垣根が曖昧な頃の"アンホーリー"。
見事に現代に再現してくれたようなサウンドではなかろうか。

なお、今回私も参加させてもらったブラックメタルファンジン

End of a Journey Part2
http://g0ing-0n.tumblr.com/post/33424993943/end-of-a-journey-part2


では、Returnのメンバーのインタビューを行ったので、
是非是非お読みいただけると嬉しいです。

Encyclopaedia Metallum - Return
タグ: Return  Bathory  Japan  2011 
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The Return...... : Bathory (1985) 

ブラックメタルの始祖にして、一人バンドのBathoryの2ndアルバムを紹介。

The Return......The Return......
(2010/09/14)
Bathory

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1stはVenomをマジ解釈しちゃったハードコアナイズなブラックスラッシュだったが、
ついにこのアルバムでは後のブラックメタルの要素をそろえたといってよい。

ノイジーなギターがジリジリと迫り、ヴォーカルスタイルもまさにブラック。
この頃の、他のブラックメタルルーツな作品はここまで邪悪でブラックな作風はなかった。
どちらかというと過激であることを至高にした作品たちだった。

しかしこのアルバムは全く異なり、既にほぼ完全なブラックメタルをプレーしている。
その作風としての完成度は3rdに譲るが、こちらも生まれたての生々しさを存分に楽しめる。

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The Early Black Years: 1992-1995 : Abigail (2007) 

日本のブラックメタルバンド、Abigailのコンピレーションアルバムを紹介。

abigail.jpg

1992年から長く活動を続けている東京のカルトスラッシュ/ブラックメタルバンドであり、
その初期音源をまとめたものであり音質はバラつきがあるものの、総じて悪い。
それが逆にイーヴルさを倍増させている。

カバーでBathory、Bulldozer、Sodomをプレーしている通り、
サタニック/ブラックスラッシュの影響を大いに受けたサウンドを展開している。
特にBulldozerは相当お気に入りらしく、
楽曲名をサイドプロジェクトのバンド名(Cutthroat)に用いている。

確実にマニアが手に入れるべきアルバムなわけだが、
日本にもこんなにも邪悪を身にまとったバンドがこんな時代から存在していたことを、
再確認できるアルバムであり、そのような価値も高い。
タグ: Abigail  Japan  Sodom  Bathory  Bulldozer  2006-2010 
Black  /  tb: 0  /  cm: 0  /  △top