お知らせ 

本を出しました。

コラム「ウォー・ベスチャル・ブラックメタルとは何か」連載中
その他  /  tb: 0  /  cm: 1  /  △top

Sacrilegious Fornication Masscare... Filthy Desekrators! : V/A (2016) 

日本のブラックメタル・ヤクザ、Abigailと韓国のウォー・ブラックメタルバンド、Nocturnal Damnationのスプリット盤を紹介。
ポーランドのPutrid Cultからlim.500でリリースされた。

Abigail_Nocturnal_Damnation.jpg 

 拙著掲載のインタビューにてNocturnal Damnationのメンバーからリリースすると公言されていたスプリット盤で、双方2曲提供の4曲入りとなっている。夏にリリースされた5thアルバムに対してこのスプリット盤は10月末にリリースされたわけだが、何やら凄いらしいと小耳に挟みつつも国内になかなか入ってこなかったために私自身は今年になってようやく手に入れて目をひん剥いた。

 Abigailサイドの1曲目が今までの彼らの作品のどれよりもブルータルなメタルになっている。用いられているリフやブリッジなどは元々の彼らの路線であるが、ドラムの強烈さもあわせて全体の圧が凄い。ひたすら圧倒される。いわゆるウォー・ベスチャルにも肉薄しているようなカオスさも持ち合わせた傑作だ。2曲目の煽情的なブラック・スピードメタルもまた素晴らしい。何しろタイトルが"We are True Evil"である。これら2曲はスプリットにしか収録されないのだとしたらちょっと勿体ないのでは、と思わせるほど。

 Nocturnal Damnationサイドは彼の新境地とも思わせるオールドスクール・デスメタルを思わせるスタイルに踏み込んでいて、当初のBlasphemy~Conquerorの影響とは異なり、もっとスロウに磨り潰しにかかってくる。ヴォーカルスタイルもより重く低いグロウルに変わっているように感じる。そういえば彼はSadistic Intentの影響を受けていると言っていたが、まさにその辺りを突いてきている一方で、それをもっとへヴィにバスブーストで仕上げたという感じだろうか。

 とにかくAbigailサイドの素晴らしさが際立っている一方で、クラシックなサタニック・デスメタルを選択したNocturnal Damnationの方向性も含めて実に興味深いスプリットである。

Encyclopaedia Metallum - Abigail
Encyclopaedia Metallum - Nocturnal Damnation
タグ: Abigail  Nocturnal_Damnation  Japan  Korea  2016 
Black  /  tb: 0  /  cm: 0  /  △top

The Final Damnation : Abigail (2016) 

日本のブラックメタル・ヤクザ、Abigailの5thアルバムを紹介。
アメリカのNuclear War Now! Productionsよりリリースされた。

Abigail_6.jpg 

 漆黒をバックにChris Moyen氏のアートワークという出で立ちでAbigailの新譜が発表されてビビッと来た人は多いだろう。ブラックメタルをプレイするAbigailが戻ってきたのではないかと。1stアルバム"Intercourse & Lust"以前のスタイルは、例えば以前紹介したDrakkar Productionsリリースの”The Early Black Years (1992-1995)”で聞くことができるが、2ndアルバム"Forever Street Metal Bitch"から近年までのイーヴルなスラッシュメタルをベースにしたメタルパンク路線より、その源流となるVenom、Bathory、Bulldozerあたりの1st waveブラックメタルスタイルであった。

 この5thアルバムはそのような原点回帰を図ったという話だったが、いやいや聞いてみるとそんなAbigailたるオリジナリティを捨て去るようなことはしていない。確かにルーツのブラックメタル・スタイルはリフやヴォーカルスタイル、ヘヴィネスさに顕著に現れている。しかしそこに2ndアルバム以降のらしさも失われていない。むしろ築き上げたものは健在である。その結果としてイーヴィルかつヘヴィでありながら軽快さ・煽情さも味わえるアルバムに仕上がっている。#06"No Pain! No Limit!"の日本語歌詞も実に熱い。

 また曲中の展開、アルバム全体のバリエーションなどなど国内外のマニアたちを感服させてきた絶妙なバランスはパワーアップしており、今年結成25周年を迎えたバンドとしての気焔を見せつけてくれた快作と言えよう。感服。

Encyclopaedia Metallum - Abigail
タグ: Abigail  Japan  2016  個人的良盤 
Black  /  tb: 0  /  cm: 0  /  △top

いいえ、その逆です。 : OLEDICKFOGGY (2011) 

日本のサイコビリー/パンクバンド、Oledickfoggyの4thアルバムを紹介。
日本のDIWPHALANXよりリリースされた。

oledickfoggy_iie.jpg 

 前作 "Rusticが止められない” から二年を空けてのフルアルバムで、個人的にはこのアルバムがある種彼らのハイライトに見えている。ライブでも頻繁に披露する「カーテンは閉じたまま」「チブサガユレル」「blow itself away」「暗転」など多数の名曲が収録されており、一方でこの次以降の作品への布石となるような楽曲も含まれており、バラエティに富んだラスティック・フォーク・パンクが存分に楽しめる。

 が、一方で実はその「次以降の作品」からどうものめり込めない自分がいた。恐らく「(自分が勝手に)期待するOledickfoggy像」からのズレに戸惑っていたのだと思う。この固定観念は非常に邪魔なものではあるのだが拭い去ることはできない。このアルバムは掛け値なしの名曲だと時に興奮、時にしんみりとOledickfoggyにぞっこんになりつつも、同時にのめり込めない楽曲の混在がふと我に返ってしまう要因になっている。

 こんなことを綴ったのも実は今、昨年にリリースされた "グッド・バイ" を聞きながらこのインプレッションを書いているからだ。またいつかそちらの感想は書くこともあるかもしれないが、彼らの作品であることは間違いない。洒脱な歌詞といい、サイコビリー的でパンクな楽曲も健在だ。わかる、わかるんだけど。あのときに聞いた衝撃がない。特に古参のファンでもなく、何も偉そうなことは言えない。自分が好きなそれは彼らの変化、進化を前に老害の嗜好でしかないのかもしれない。老兵は黙って去るべきかもしれない。それでもなお立ち去らせてくれないだけの魅力がある。未練がある。みっともないかもしれないけどそれでも黙って次の新譜を待つしかない。グッド・バイは難しい。
タグ: Oledickfoggy  Japan  2011 
Harc Core  /  tb: 0  /  cm: 0  /  △top

Existence of Abhorrence : Nuclearhammer (2007)  

カナダのウォーブラックメタル、Nuclearhammerのデモ音源を紹介。
カナダのPoison Mist Propagandaよりlim.80でCD-rフォーマットでリリースされ、後にエクアドルのBlack Goat Terrorist 666よりテープで再発された。

nuclearhammer_2demo.jpg 

 1stアルバムがウォーブラックメタルフリークから大絶賛され、一気にブラック・デスメタル・シーンの第一線に登り詰めた一方で、その後のミニアルバム、2ndと予想を斜め上にいくスタイルへの転身を遂げて、しかもそれらの作品も素晴らしかったために、一筋縄ではいかない、スタイルへの安住を良しとしないという印象を持つバンドではある。

 一方で以前紹介したこのバンドの前年デモ "Immortalized Hatred” は呪詛的なVONの要素とBlasphemyライクのブラック・デスメタルをミックスしながら轟音ブラック・ドゥームのような展開も見せた粗削りスタイルだったが、こちらはより原初的なスタイルを取っており、極めてルーツに忠実な姿勢が見られる。というか、これは北米のBeheritといっても良いのではないか。いや、BeheritBlasphemyをトレースしたら、という方がより正しい気もする。ウィスパーボイスの使い方などBeheritウォーシッパーらしさが伝わってくる一方で、ドラムのドカドカ感などはウォーブラック、というかBlasphemyのそれのように感じる。

 近年におけるウォーブラックメタルの名作であった1stアルバム "Obliteration Ritual" の導線としては最も解りやすい内容を提示しているのがこのデモであり、彼らのマイルストーンというわけだ。さてこのデモは現在フィジカルで入手するのは全く至難の業だが、 "Immortalized Hatred” と同様にレーベルでの無料DLが可能で、筆者もそこでDLした。たぶん今も可能だったと思うが未確認なので興味がある人は確認されたし。

Encyclopaedia Metallum - Nuclearhammer
タグ: Nuclearhammer  Beherit  Blasphemy  Canada  2006-2010 
Black  /  tb: 0  /  cm: 0  /  △top

Devanation Monumentemples : Genocide Shrines (2012) 

スリランカのウォー/ブラック・デスメタルバンド、Genocide ShrinesのデビューEPを紹介。
インドのCyclopean Eye Productionsよりリリースされ、アナログver.はドイツのIron Bonehead Productionsよりlim.500でリリースされた。

Genocide_Shrines_EP.jpg 

 ウォー・ベスチャル・ブラックメタル・ガイドブックにインタビューが掲載され、また1stアルバムが世界中のブラック・デスメタルフリークから大絶賛されたスリランカのアンチ仏教ブラック・デスメタルバンドのデビューEPである。こちらはこれまたインタビューが掲載されたレーベル、Cyclopean Eye Productionsからリリースされておりそのあたりはぜひ本を読んでください。

 さてインドのDIYレーベルからリリースされたというわけで、当時の日本でこのバンドを知っていた人は少なかったと思うし自分もそうだったわけだけど、この頃から「坊さん皆殺し」を掲げて、こんなにも「地獄」というか「輪廻の否定」を感じさせるサウンドをスリランカから出していたというのは本当に驚きでしかない。

 1stアルバム収録曲に比べると楽曲の展開や曲間のつなぎなどのトータルの仕上がりのところで粗が目立つけれども、目の前の事象に対する「渦巻く感情の発露」と置かれた状況への「冷徹な視線」という相反する感情が両立しているようなサウンドは既に確立していて非凡さを感じる。1stを聞いて彼らのサウンドに惹かれた人なら間違いなく期待を裏切らない。

 さらに個人的には今まさにこれを聞いて当時からとんでもないバンドがスリランカで存在していたんだという事実が広大なエクストリームメタルの裾野、広がり、そして局在を証明しており、今も自分のあずかり知らぬ何処かで強烈なサウンドが生まれているのだろう。そのような未知なるサウンドへの憧憬を信じることができる作品だ。

Encyclopaedia Metallum - Genocide Shrines
Bandcamp - Iron Bonehead Productions
タグ:   Genocide_Shrines  Sri_Lanka  個人的良盤  2012 
Black  /  tb: 0  /  cm: 0  /  △top

Contos da Empalacao : Kaziklu Bey (2012) 

ブラジルのウォー・ブラックメタルバンド、Kaziklu Beyの4thデモを紹介。
ブラジルのNocturnized Productionsよりテープでリリースされた。

Kaziklu Bey 

 1997年にサンパウロで結成した白塗り系ブラックメタルバンドで、2000年に"Black War
Metal"というデモでデビューした。今回紹介しているデモは通算4枚目にして彼らの"最期"の作品。

 スタイルとしてはノイジーな南米ベスチャルスタイルであり、デビューデモのタイトルから直感的に想像するサウンドとは異なるものの、冒涜的で暴力的という点では近い。但し90年代のブラジリアン・ブラックメタルはヨーロッパからの影響のうち、特にHellhammerに感化されていたのではないかと勘ぐらせるようなミステリアスなメロディを持っており、このバンドも同様にそのあたりの影響を感じさせる。北米ウォーメタルというと現代兵器を用いて皆殺し的なサウンドであり、ドカドカジャカジャカなのにどことなくカルトで怪しいのが南米ウォーメタルというところだろうか。

 この怪しさというのは人によっては単なる「虚仮威し」に過ぎないだろうし、ImpurityMystifierクラスまで上り詰めないと、人に推薦できるファクターにはなりえないわけだけど、この内容を「珍味」として好む人は絶対いるわけで、それもやはり南米ベスチャルブラックメタルの一つの楽しみ方なのではないだろうか。なお先ほど"最期"と書いたのは、2013年にパーマネントメンバーが仕事中に事故で亡くなり、同年バンドはヘルプを招聘して「解散」ライブを行ってR.I.P.としたからである。合掌。

Encyclopaedia Metallum - Kaziklu Bey

Deathrash Armageddonにて購入可能です。
タグ: Kaziklu  Bey  Brazil  2012 
Black  /  tb: 0  /  cm: 0  /  △top

Confusion... : Esperanzaviva (2012) 

日本・大阪のレイジングハードコアバンド、Esperanzavivaの1st EP(7")を紹介。
名古屋のKarasu Killer Recordsよりリリースされた。

Esperanzaviva.jpg 

 当時からよく名前を耳にしてライブが凄まじくカッコいいと聞いていたものの、残念ながらタイミングなどが合わず見に行くことはできなかった。その心残りがシコリとなっていたため某大手中古CDショップにて見つけた時は即決購入。

 勢い一辺倒というと軽んじた評価に聞こえるかもしれないが、小細工なし、装飾なし、従来の日本のハードコア・パンクの流れを踏襲しつつ、スラッシュメタルに通じるメタリックなリフを組み込んでメタルファンも虜にする『一本調子』は実際只者ではないし、収録曲5曲、計11分はあっという間に過ぎていく清涼感がある。

 またその『一本調子』についても#05に関してはまた幾分異なった側面も示すことで、溢れんばかりの若さだけではないところも見せつけてくれ、いよいよ生で見てみたいし、フルレングスにも期待した…かったのだが、いまさら2015年11月にラストライブだったとのこと。こういう後悔があるから若い人は気になるライブにはどんどん参加してほしいとオジさんは思うのだよ。
タグ: Esperanzaviva  Japan  2012 
Harc Core  /  tb: 0  /  cm: 0  /  △top

ウォー・ベスチャル・ブラックメタルとは何か - III - 

⇒ 「ウォー・ベスチャル・ブラックメタルとは何か - II -

■ Sarcófago以降のブラジリアン・ベスチャル・ブラックメタル

 アンダーグラウンドにおいて大きな衝撃を与えた1986年リリースの4-wayスプリット "Warfare Noise I" 、そして特にその収録バンドの中でもSarcófago(1985年結成)はメタルのエクストリーム化という観点において当時の極大値とも言える存在となり、サタニックな作品コンセプトと、アーティスト写真など多大なる影響をブラジル内外に与えた。海外への影響は後述するとして、まずブラジル国内の同時期にデビューしていたバンドについて注目してみよう。

 ウォー・ベスチャル・ブラックメタル・ガイドブックにて紹介した、Necrófago(1986年結成)、Sextrash(1987年結成)の紹介は割愛するとして、ここでは未紹介であったバンドについて触れておきたい(なぜ未紹介であったかというと筆者が音源を所持していなかったため)。まずはSextrashとメンバーが大いに被っていたInsulter(1986年結成)だ。あまりにもメンバーが重複していたため後年、Sextrashの前身という噂も出たがあくまで別バンド。2ndデモ"Black Church"にはSarcófagoの1stアルバム"I.N.R.I."で壮絶なドラミングを披露して名作と呼ばれる一因となったD.D. Crazyも参加している。Sarcófagoの流れをしっかり汲んだベスチャル・ブラックメタルだ。



 当時、ブラジルはある種の時代遅れなスラッシュメタルバンドが次々と現れ、それが逆に他の国からすれば貴重なカルト・スラッシュメタルバンドの産出国に見えていたわけで、その中でこのようなスタイルのバンドも同時に流出されたのだから聞く人によっては「聞くに堪えない」メタルだっただろう。Insulterも近年まで決して注目されてはいなかったが、00年代以降のベスチャル・ブラックメタルスタイルの再評価の機運が高まった結果、2012年に再結成を果たさせた。そして2015年には彼らの残していた4枚のデモをまとめたコンピレーション盤"Blood Spits, Violences and Insults"がNuclear War Now! Productionsからリリースされ、当時の偉大なレジェンドの一つにまで見直されたわけである。

 そのように当時はスラッシュメタルからの逸脱によって評価されない側面もあった中で、もう二つのバンドも紹介しておきたい。Exterminator(1986年結成)とNecrobutcher(1988年結成)だ。ExterminatorSextrashの中心人物Freddy Krueger氏が在籍していたバンドで、たった1枚のフルアルバム"Total Extermination"しか残していない。このアルバムはブートを除いて公式な再発盤が出ていないのだ。オリジナル盤はlim. 900しか出ておらず、これを持っている人は相当なコレクターであろう。まずジャケットにハーケンクロイツがある。Holocaustoはもちろんのこと、MutilatorやマイナーなところではEscola Alemãなども挙ってナチスをテーマにして過激化を追求していた時代のことだ。この辺りは当時のファンジンを読み漁ると内外から色々な見解が出てきて面白いが、ほとんどの場合はショック用法のような使い方をしていたようだし、その安易な姿勢に呆れているバンドもいたようだ。さてはて中身の方はというといわゆるブラック・デスメタルになっていて時代を先取りしている。南米におけるカルトメタルの枠から更に這い出ようとする姿勢が実に興味深い。



 Necrobutcherは他のバンドが大抵、ベロ・オリゾンテ出身だったのに対して西海岸のフロリアノーポリス出身のバンドであるということに面白さがある。ベロ・オリゾンテから1000km以上で、日本で例えると東京から九州内陸部程度までの距離である。フロリアノーポリスはメタルが全く盛んではなく、Encyclopaedia Metallumで検索してみてもブラックメタルどころかメタルバンド自体が歴代数えるほどしか存在していない。その中でこのバンドは明らかにSarcófagoの影響を受けたルックスであることが面白い。更に楽曲はグラインドコア並みのスピードと楽曲の短さ、そしてもちろんSarcófagoを思わせるイーヴィルなサウンドが面白い。



 このように当時のメタルシーンは地域性によって物理的距離による障壁から成り立っており、その中で逸脱するバンドの面白さがベスチャル・ブラックメタルを生んだ。更にその物理的距離の障壁を超えたところに波及した時、その新たな地域における化学反応が異なるサウンドを生んでいたと考えられるわけだ。ちなみにウォー・ベスチャル・ブラックメタル・ガイドブックでインタビューが掲載されたImpurityGoatpenisはまさにその二つを体現したバンドで、Impurity(1989年結成)はベロ・オリゾンテの生き証人であり、Goatpenis(前身1988年結成)はNecrobutcherと同様のサンタカタリーナ州のブルメナウ出身であるのが実に面白い。スタイルもまさに前者はトラディショナルなベスチャル・ブラックメタルを基盤とし、Goatpenisはグラインドコアを基盤としながら南米ベスチャルスタイルとの混和で新しいウォー・メタルスタイルを提示したわけだ。他にブラジルの北東部に位置するサルバドール出身のMystifierSarcófagoからまた一歩先のスタイルを持っていたわけだが、この辺りは本でも網羅してあるので是非読んでいただきたい。

 さて今回はブラジリアン・ベスチャルブラックメタルのバンドを音を交えて紹介することで、そのローカライズされたメタルスタイルとエクストリーム化による逸脱によって、新たなスタイルとしてブラジリアン・ベスチャルブラックメタル・スタイルが出来上がったことについて説明してきた。となると当然次に話すべきなのは同じ南米という地域性は同じにして、かつ異なるシーンを形成した他の南米諸国…特にコロンビアやペルーについて言及しなくてはなるまい。それはまた次回。

⇒ 「ウォー・ベスチャル・ブラックメタルとは何か - IV」
その他  /  tb: 0  /  cm: 0  /  △top

ウォー・ベスチャル・ブラックメタルとは何か - II - 

⇒ 「ウォー・ベスチャル・ブラックメタルとは何か - I

■ Bestial Black Metalのルーツ①・サンパウロのハードコア・パンク

 前回は本コラムのイントロとして「ウォー・ベスチャル・ブラックメタルというジャンルがあるのか?」という切り口で概説を述べた。では実際にベスチャル・ブラックメタルについて、そのルーツを実際の音などを交えながら説明していこう。

 1970年代終わりから80年代初頭の南米はブラジルを見てみよう。1964年から続いていた軍事政権の限界が露呈した時期である(1985年に崩壊して民政移管された)。貧富の差の拡大などから国民の不満が募る中で、海外よりロックが流入して人気を博しはじめていた。そしてアンダーグラウンドにおいてはハードコア・パンク、そしてメタルも流入していた。

 そのような中で特に「過激化」というキーワードで掘り起こしていくとハードコア・パンクの影響は大きく、大都市サンパウロにおいてOlho Seco(1980年結成), Ratos de Porão(1981年結成), Brigada do Ódio(1983年結成)といったハードコア・パンクバンドが現れた。特にBrigada do Ódioは当時すでにグラインド・コアとも言える内容の音楽をプレイしている。



 掲載した音源は1985年のもので、グラインド・コアの始祖的存在と言われるNapalm Deathの1stアルバムがリリースされる以前のものなのである。当時はクラスト・コアのDischargeの影響を受けてフィンランドのハードコア・パンクが大いに隆盛になった時代であり、ブラジルにもその余波が到達していたようだ。フィンランドのハードコア・パンクバンドであるTerveet KädetはブラジルのSepulturaのMax Cavalera 氏が当時から聞き込んでいたことを後のインタビューで述べている。

 しかしいずれにしてもBrigada do Ódioは実に強烈なノイズコアを発している。この「特異点」こそが次の時代を生む分水嶺である。このハードコア・パンクが俄かにシーンを形成しつつあったサンパウロにて1980年に結成されたのがVulcanoである。しかし実は彼らが初めて世にリリースした1983年のEP "Om Pushne Namah" は何てことはない普通(?)のヘヴィメタルであった。



 後の彼らを知っていると笑ってしまうような作風である。しかし逆にこのEPしか知らないで次の作品を聞けばもっと驚くことであろう。いきなり路線を大きくブラックメタルにシフトさせてきたのである。1984年リリースのデモ "Devil on My Roof"だ。



 1984年とはヨーロッパではSodomの1st EP"In the Sign of Evil"、Bathoryの1stアルバム"Bathory"という二つの重要な音源がリリースされた年であり、この頃に当時は第三世界と目されていたブラジルにてこのようなスタイルの音楽が誕生していたのだ。これは彼らが当時、ハードコア・パンクバンドたちとギグを共にするなどして変化したスタイルなのだと言われている。もちろんアンチクライストな姿勢などはVenomの影響があったことが考えられるが、音楽的な苛烈さはむしろハードコア・パンクによるものが大きかったことは音を聞けば解る。

 彼らのスタイルチェンジはベスチャル・ブラックメタルの誕生を促すものであった。但し彼らの存在がこのジャンルのランドマークではない。ここで今回、あえて収録曲の紹介をライブ動画で行ったワケがある。というのもこのライブ、1986年にベロ・オリゾンテで行ったものなのである。ベロ・オリゾンテ…この地こそがベスチャル・ブラックメタルの発祥の地である。

■ Bestial Black Metalのルーツ②・Sodom

 ベロ・オリゾンテに1980年から続く一件のレコードショップがあった。その名はCogumelo Records。1985年にレーベル活動を開始してリリースしたのがOverdoseSepulturaとスプリットLPである。Overdoseはいわゆるパワー/スラッシュメタルであったが、Sepulturaはブラックメタル化したVulcanoの影響を強く受けていた。しかしこの作品がリリースされる前にSepulturaから出ていった男がいた。彼の名はWagner Lamounier。彼の目的はより冒涜的で獣性の伴う速くて重い音楽の創出であった。そして作り出したバンドが Sarcófagoである。

 Cogumelo Recordsが続いてリリースしたのが、そのSarcófagoを含む4-wayスプリット "Warfare Noise I"である。他の参加バンドはMutilator, Chakal, Holocausto。いずれも後にブラジリアン・メタル史に残るバンドたちであろうが、まず何といってもSarcófagoである。

sarcofago.jpg 
Sarcófago



 彼らのスタイルこそが後に「南米のトラディショナルスタイル」と世界中で称されるベスチャル・ブラックメタルの原型にして完成型である。彼らのスタイルは当時こそは「デスラッシュ」などとも呼ばれた。彼らの楽曲名からきていると思われるが、今では該当するジャンルは異なるスタイルを指すため、今ではベスチャル・ブラックメタルと呼ぶ方が区分けできる。

 本にも記載した通り、彼らの存在は後にヨーロッパで勃興する2nd waveとしてのブラックメタルにも大きな影響を与えたわけだが、同時にこのスタイルというものは世界中のアンダーグラウンドシーンに継承されながら現在に至っており、いわば一つの極値解を当時すでに出していたと言えるのではなかろうか。

 このようなスタイルはブラジリアン・ハードコアパンクシーンからSepulturaまでの流れ、そしてそこからより邪悪で過激な音楽を産み出そうとしたエポックメイキングな意思があった。一つには稀代のベスチャル・ドラマーであったD.D. Crazyの存在がそれを可能にしたと考えられるが、一方で"Warefare Noise I"ではまだドラマーは前任者のArmandoが担っていた。ではそのbarbaric(野蛮)でbestial(獣性)なスタイルの呼び水となった最も大きな存在は何だったのだろうか。筆者はSodomだったのではないかと推察している。



 当人たちが後年耳コピによるセルフカバーすら覚束ない崩壊した演奏は、その奇跡的なアンサンブルとして成立した。「無理しなさんな」というほどの楽曲は当時は「ハードコア・メタル」などと海外で呼称されていたようだ。特にChris Witchhunterのドラミングはそのもたつき方だけでなく、なぜだか最後に上手く締めるところまで味わい深いものであり、一時期は特に国内を中心に「汚物系スラッシュメタル」との呼び声も高かったが、実はブラックメタルの原型としてのサタニック・スラッシュメタルの名盤であることが00年代以降に世界的評価として固まっており、Sarcófagoにも大きな影響を与えたと思われる。実際、Sarcófagoを聞きながら随所にSodomへのworshipが滲み出ているのが解ることであろう。

 さてSodomへの影響といえばHolocaustoも同様である。



Holocausto War Metal 

 ブラジリアン・メタルの中で初期Sodomの「なぜだか最後に上手く締める」感を継承したバンドとしても有名であるが、もう一つ彼らを「過激」なバンドとして成立させたのは写真にも示す通り、そのアティチュードである。どうやら当時のブラジルはナチスのモチーフを使用するバンドが多かったことがヨーロッパのファンジンで言及されている(先のVulcanoは当時のインタビューで「幼稚な行為」だと指摘しており、ブラジルの中でも地域的に割れていたようだ)。その中でもバンド名、作品タイトルなど全てにおいて露骨だったのがHolocaustoである。彼らは思想に基づいた行動というより露悪趣味に近い行為であったのではないかと推測されるわけだが、いずれにしても物議を醸したバンドである。また違う見方をすると"War Metal"という単語が目に入る。現在ウォー・メタルが意味するジャンルは後に言及するがBlasphemy影響下のブラックメタル・スタイルを指すわけだが、彼らの存在も重要視すべきである。

 また1980年半ばから後半にかけて既に最先端でスラッシュメタルからデスメタルやグラインドコアに過激化のスタイルがシフトしつつあった中で(スラッシュメタルがマーケットにおいて存在感が出てメジャー化したことも一端であろう)、当時のブラジルのアンダーグラウンド・メタルにおいては第三世界であるが故の海外からの情報供給の乏しさなどから、古き良きスラッシュメタルスタイルの継続もなされていたわけで"Warfare Noise I"でSarcófagoと共演したMutilatorやChakalはそのようなブラジリアン・スラッシュメタルの流れを汲んでいったバンドである。補足までに言っておくとMutilatorは"Warfare Noise I"の収録曲に関してはベスチャル・ブラックメタル・スタイルであった。



 さて今回はだいぶ長くなってしまったので一旦、筆を収めよう。次回はSarcófagoの誕生以降のブラジリアン・ベスチャル・ブラックメタルの流れについて触れ、更に一方でコロンビアなどのブラジル外の南米で同時多発した南米カルト・ノイズメタルについても取り上げることで、80's ベスチャル・ブラックメタルをまとめたい。

 それでは次回をお楽しみに。

⇒ 「ウォー・ベスチャル・ブラックメタルとは何か - III -」
未分類  /  tb: 0  /  cm: 0  /  △top